報道するラジオ 2014年2月7日
いま、NHKで何が起こっているのか
元NHK制作局プロデューサー 永田浩三さん
文字起こし部分のYoutube→37:04~http://youtu.be/QV1c4iH5dsY?t=37m3s
水野:
過去のNHKがどうであったか?
政治との距離を考える時にですね、永田さんにおしゃべり頂くのが一番ふさわしいだろうという思いがあって、
今日は永田さんに東京から来ていただいているんですけれども、
皆さん覚えていらっしゃるでしょうか?
これは2001年の事でしたね。
ETVで放送されました「問われる戦時性暴力」。
シリーズでいろんな形で戦時下の状況を描いたスペシャルの番組がありました。
永田:4回のシリーズですね。
水野:
その時に「慰安婦制度の責任者は誰なのか」責任者を裁くという、女性国際戦犯法っていうものがありまして、
この法廷の意義について考える番組がつくられました。
それがですね、実際に放送されたら、
放送直前になってNHK幹部の指示があって、大幅にカットされ、内容が変えられて放送された。
で、その政策に関わった会社、あるいは人達が「どういうことなんだ」と怒って、
「それがのちに問題になった」と言う、大きな社会的な話がありました。
あの時の番組の統括プロデューサーをなさっていたのが永田浩三さんでいらっしゃいます。
永田:お恥ずかしいです。
水野:恥ずかしい事ではもちろんございませんが、大変な経験をなさったわけです。
永田:
今回の事との、つまり、因縁で言えばですね、
当時、2001年の1月に起きた出来事なんですけれども、「戦争をどう裁くか」シリーズ。
これは20世紀がちょうど終わる時に、
「戦争の世紀」と言われた20世紀の中で特にひどい戦時下の人権侵害について考えると。
そのシリーズの2回目で慰安婦問題を取り上げた分けですけれども、
ちょうど放送直前、前日ですけれども、現総理の安倍晋三さんが当時官房副長官ですね。
亡くなられた中川昭一さんとか、いま大臣の古屋圭司さんとか、
別の党に移られた荒井広幸さんとか、そういう名前が出ましたけれども、
特に中川さんと安倍さんは「放送の前にNHKの幹部に会った」と、
ご本人もちゃんとおっしゃっていて、
幹部に会った、その足でですね、幹部はNHKに戻ってきて、
私に「細かく番組の改編の指示を出した」ということです。
「これは政治介入じゃないか」というふうに言われているんですけれども、
NHKの方は「これは自主的に変えたんです」と。
「政治家と会った事と直接関係はありません」というふうに言っているんですけれども、
その幹部と我々現場はまさに合意の上で番組を作っていてですね。
水野:あっ!はぁ~
永田:そのNHKの幹部が永田町へ行く前までは、そのまま普通に放送は流れていたという事は、
水野:あ、そうだったんですか。
永田:
外形的事実で言えばですね、
「政治家に会った途端手のひらを返したように番組を劇的に変えた」という事は確かなんです。
ただ、NHKの側は「私たちは自主的に変えました」と言っている訳です。
それが、安倍さんが政治介入したという批判を浴びることにもなって、
安倍さんは否定されているんですけれども、
ただ、放送界を揺るがす大事件だった訳です。
平野:そうですね。
水野:あの時、幹部の方は細かく介入したと、
永田:
関東のNHKの窓口の関東局長が永田町から帰ってきて、統括プロデューサーの私永田にですね、
直接、一字一句こう変えるように、ここを切るように、って言ったのは前代未聞の事です。
水野:
へぇーーー、一字一句。
あの、それはどういう趣旨の部分を切るようにという事だったんでしょう?
永田:
簡単に言えば、「慰安婦なんていなかった」と言われる方は今もおられるんですけれども、
あと、宮沢内閣時代の河野官房長官談話というのが1993年に出るんですけれども、
これに基づいて日本政府の対応が決まっていくんですけれども、
この政府の対応についてもほとんど触れないようにするというぐらい。
水野:ほーー、
永田:つまり「政府方針そのものを否定する」というニュアンスの番組になっていく。
水野:河野談話も否定する内容。
永田:もちろんそうですね。
水野:つまり「従軍慰安婦に政府として関与したという事を認めて謝罪するという意味は全く消せ」ということですね。
永田:そうですね。
これは何か誤解があるんですけれども、
安倍政権の今日ただ今はですね、外交方針として河野談話というのは生きているんですね。
平野:そうですね。
永田:
しかし、安倍さん本人のですね、個人的見解というかですね、それは
「慰安婦問題について河野談話は間違っている」というスタンスは一貫していらっしゃいますので、
その主張をですね、NHKの番組についてもおもちだったんじゃないかというふうに推測されますね。
水野:「従軍慰安婦なんか無かったんだ」という前提で番組をつくれという趣旨の、
永田:
細かいところまではわかりませんけれども、
少なくてもNHKの幹部はそういうトーンで改編というのに、いきなりですね、手を突っ込んできたっていう。
それもだから、
「指示に従って作っていた番組を自らちゃぶ台をひっくり返した」というのは驚くべき事だと思います。
平野:
だから今回のNHKの一連の人事。
安倍さん人事というのは、この時のいわゆるリベンジというか、
この当時批判されましたよね、安倍さんの言動というのを。
だからそれを、「今度はNHKを本当に支配下に置こう」という確固たる意志のもとでですね、
人事を展開したんじゃないかと。
永田:
ま、それは安倍さんに聞いてみないとわかりませんけど、
その安倍さんが籾井(モミイ)会長の一連の妄言ですね、暴言というかそういうものについて、
「政府はNHKに政治介入はしない」というふうにおっしゃっているのは、
なんかすごく皮肉というかブラックな発言のように私には聞こえますね。
平野:そうですね
43:51~
水野:
今回、ラジオの朝の番組でもですね、
ある大学教授が原発について話をしようとしたら、それを変えるように求められたというのがありました。
これはどう見られますか?
永田:
明後日が東京都知事選挙なんですけれども、その争点の中に原発の問題がありましてね。
今回問題になっていたラジオ朝一番というのは3時間の生の情報報道番組なんですね。
その中で第一次安倍政権のしんき会のメンバーでもあった経済学者の中北徹さんという、
非常にオフケン?保守の方なんですけれども、
「コストの面から原発を考えよう」という事を語ることになっていたんですけれども、
今日の国会でも籾井会長が言いましたけれども
「選挙期間中だから、公平中立普遍不当に一層配慮して、出演を止めていただいた」
というふうに言っているんですけれども、
まぁ、なんていうんでしょうかね。
過剰反応といっていいんじゃないでしょうか。
つまり、都知事選の争点は様々ありますし、
原発の問題は国民全体の根本の問題の一つですから、それを経済的側面で語ることに何の問題があろうかと。
で、確かにその朝の生番組は政治家も沢山聞いていて、
ひょっとしたら放送したら政治家が文句を言ってきたかもしれません。
しかしそれは、日常的に文句なんて言ってくるんですから、怖がっていたら何も放送できない。
平野:それはそうですね。
永田:
だからそれを突っぱねるぐらいのNHKの毅然とした態度というのを取るべきだし、
選挙、政局という事に過剰にやっぱり配慮する放送っていうのは、
それは放送の劣化と言わざるを得ないと思います。
水野:その背景にどういうNHK内部のみなさんの気持ちがあるんでしょうね?
永田:
それこそ秘密保護法についてもね、国民の知る権利に直接かかわるような重大問題だったんですけど、
NHKニュースはその問題点についてほとんど伝えなかったということがあるし、
とてもやっぱり情けないことがいろいろ続いているっていうふうに言わざるを得ないと思うんです。
NHKは戦前は情報局の統制下にあって、戦争を国民に導いたという負の歴史があってですね、
原発報道の時も「大本営の発表」とかと言われちゃったわけですよ。
そういう事をとにかく繰り返しちゃいけない。
だから政権に対して、むしろ厳しくあらねばいけないNHKが、
そこに甘くて配慮をし過ぎて忖度をする放送現場というのは断じておかしいと思いますね。
水野:NHKの局員の方達もどうですかね?
永田:
悔しいと思います。
だから籾井さんの発言の後ですね、いろんなところで「これはひどいじゃないか」と。
で、「職員が声を上げるべきなんじゃないか」って言っているわけです。
ところが制度上もですね、職員が会長の首を切るというふうになっていませんから、
だから「遠吠えを上げる」という事だけで本当にいいのか?っていう事なんですけど、
問題は、さっきリスナーの方の質問にもありましたけれど、
市民の方とNHK職員が一緒になって「こんなNHKで本当にいいのか」と。
「我々はもっといい職場に変えていくべきなんじゃないか」と。
「このまま流されていていい筈がない」っていうふうに声を上げて欲しいですね。
水野:
あるリスナーの方はね、
「NHK会長の発言に対してNHKは放送すらしないじゃないですか」とおっしゃっていますが。
永田:
いや、本当です。
だからメディアでNHKのことが話題になっていると。
NHKはニュースを報道する場所で、NHKがニュースのネタになる所じゃない訳ですよ。
ものすごく恥ずかしい。
しかも、恥ずかしいことをNHK自身が伝えないとすれば、
NHKを信じて、日々放送を聞いて下さったり、見て下さる方を裏切ることだと思いますよ。
水野:
この方はこうもおっしゃっていて、
「BBCはじめ欧米の放送局って常に時の政権とバトルをしてきたと聞くんですが」
公共放送のあり方ですね。
永田:
公共放送は国営放送ではないんですね。
つまり、「市民のために」の放送でという事だから戦後ですね、高野会長というのは高らかに宣言するわけですね。
これがだからNHKの基本だと思うんです。
「お上の放送じゃ断じてダメ」で、よく
「みなさまのNHK」みたいなくすぐったい、気色わるっ!みたいなことばってあるでしょ。
そうじゃなくてですね、本当に市民のための放送局にみんなで育てていくと。
ものすごい受信料を積み上げて作ってきた国民のための放送局ですよ。
これは宝なんですよ。
水野:国民の財産と思っていいんですよね。
永田:
だから安倍さんの私物じゃない訳ですね。
だから「市民のための放送たれ」という事だと思います。
NHKがひどくなると被害をこうむるのは視聴者である市民な訳です。
水野:そうだ、そこですよね。
永田:
だから、「公共放送というみんなの宝」をね、「一時の政権の道具」なんていうくだらないものにしてはいけない。
だから「NHKを市民に取り戻せ」という事だと思います。
平野:
永田さんの御本に、永田さんご自身が書かれている
「権力と俗情が結託している様な放送局は公共放送ではない」と厳しく、
今はソフトにおっしゃっているんだけれども、厳しい論調で書かれていますよね。
永田:
「権力と俗情の結託」というのはまさにいま籾井さんが言っている事でもあるし
籾井さんを安倍政権が守ろうとしているということも含めて、
平野:
サポートしている。
それともうひとつ言わせてもらえれば
「NHK内部の権力闘争で政権にすり寄っている人たちがいる」という、これもやっぱり
永田:
思います。
まさに「永田町にいい顔ができて、そこをコントロールできる」っていう幻想を抱いてですね、
NHKの中での立場を強化して、自分がのし上がるみたいな人達が、
水野:はぁ~
永田:そういう人たちがNHKの中で権力を握るという事は断じて許しちゃいけないですね。
平野:今回の籾井さんがどういう会長人事をするのかという事がまた、NHKの役員の人達の関心事になってですね。
永田:
籾井さんが免罪符だけど生き延びた方がその次の人の実質権力が高まるとかですね、
そういう、なんか市民からすれば「なにをやっているんだ」と。
平野:背信行為ですよね。
永田:
つまり、「業務をちゃんとやってくれ」と。
「自分たちの政治の道具とか、権力闘争の道具にNHKをつかうな」というふうに思いますね。
水野:
今のような人事が続いていった時にね、NHKでどのようなことになるのか?
報道姿勢にどのようなことになるのか?っていう心配はいかがでしょう。
永田:
いや、そうだと思います。
ただあのね、やっぱりその、どんなに上が変でも、経営委員が変でも
それぞれの現場の記者やディレクターは日々の仕事を大事に思っていますし、
別に永田町へ向けて放送を出している訳じゃありませんから、そこは大丈夫だろうと思うんです。
ただその人たちが、こう、賢いですから先回りして
「これをやると危ないかな」
「これはやるとNHKの中での立場が悪くなるな」なんていうふうに自粛することは避けて欲しいし、
で、世の中を信用してほしいと思うんです。
「おかしいよ」というふうに一緒に声を上げてくれる視聴者の人とかが沢山いらっしゃる。
それを信じて欲しいと思いますね。
水野:
永田さん達は、OBでいらっしゃるお仲間とともに
「NHKもっと頑張れよ」って現場の人達を応援してらっしゃるんですよね。
永田:
おれはただ、そのETV事件の時に負けた人間ですし、
その、なんていうか世の中の、NHKの外で応援してくれる人たちをやっぱり信頼できずに、
すごく反省があるしやっぱり後悔があるんですね。
だから同じ轍は踏まないで欲しいと、強く思いますね。
水野:永田さんご本人は「NHK、鉄の沈黙はだれのために」って。この鉄の沈黙、ほんとうに。
永田:
だから「職員は黙っていなくていいよ」と。
なにも個人名で戦えと言っている訳じゃないんです、怖いですから組織が。
だから、「みんなで束になって市民と一緒に何かできるといいですね」
水野:
「市民を信じてくれ」というメッセージですね。
今日は元NHK制作局プロデューサーの永田浩三さんにおいでいただきました。
どうもありがとうございました。
永田:ありがとうございました。
53:04
続きを読む
いま、NHKで何が起こっているのか
元NHK制作局プロデューサー 永田浩三さん
文字起こし部分のYoutube→37:04~http://youtu.be/QV1c4iH5dsY?t=37m3s
水野:
過去のNHKがどうであったか?
政治との距離を考える時にですね、永田さんにおしゃべり頂くのが一番ふさわしいだろうという思いがあって、
今日は永田さんに東京から来ていただいているんですけれども、
皆さん覚えていらっしゃるでしょうか?
これは2001年の事でしたね。
ETVで放送されました「問われる戦時性暴力」。
シリーズでいろんな形で戦時下の状況を描いたスペシャルの番組がありました。
永田:4回のシリーズですね。
水野:
その時に「慰安婦制度の責任者は誰なのか」責任者を裁くという、女性国際戦犯法っていうものがありまして、
この法廷の意義について考える番組がつくられました。
それがですね、実際に放送されたら、
放送直前になってNHK幹部の指示があって、大幅にカットされ、内容が変えられて放送された。
で、その政策に関わった会社、あるいは人達が「どういうことなんだ」と怒って、
「それがのちに問題になった」と言う、大きな社会的な話がありました。
あの時の番組の統括プロデューサーをなさっていたのが永田浩三さんでいらっしゃいます。
永田:お恥ずかしいです。
水野:恥ずかしい事ではもちろんございませんが、大変な経験をなさったわけです。
永田:
今回の事との、つまり、因縁で言えばですね、
当時、2001年の1月に起きた出来事なんですけれども、「戦争をどう裁くか」シリーズ。
これは20世紀がちょうど終わる時に、
「戦争の世紀」と言われた20世紀の中で特にひどい戦時下の人権侵害について考えると。
そのシリーズの2回目で慰安婦問題を取り上げた分けですけれども、
ちょうど放送直前、前日ですけれども、現総理の安倍晋三さんが当時官房副長官ですね。
亡くなられた中川昭一さんとか、いま大臣の古屋圭司さんとか、
別の党に移られた荒井広幸さんとか、そういう名前が出ましたけれども、
特に中川さんと安倍さんは「放送の前にNHKの幹部に会った」と、
ご本人もちゃんとおっしゃっていて、
幹部に会った、その足でですね、幹部はNHKに戻ってきて、
私に「細かく番組の改編の指示を出した」ということです。
「これは政治介入じゃないか」というふうに言われているんですけれども、
NHKの方は「これは自主的に変えたんです」と。
「政治家と会った事と直接関係はありません」というふうに言っているんですけれども、
その幹部と我々現場はまさに合意の上で番組を作っていてですね。
水野:あっ!はぁ~
永田:そのNHKの幹部が永田町へ行く前までは、そのまま普通に放送は流れていたという事は、
水野:あ、そうだったんですか。
永田:
外形的事実で言えばですね、
「政治家に会った途端手のひらを返したように番組を劇的に変えた」という事は確かなんです。
ただ、NHKの側は「私たちは自主的に変えました」と言っている訳です。
それが、安倍さんが政治介入したという批判を浴びることにもなって、
安倍さんは否定されているんですけれども、
ただ、放送界を揺るがす大事件だった訳です。
平野:そうですね。
水野:あの時、幹部の方は細かく介入したと、
永田:
関東のNHKの窓口の関東局長が永田町から帰ってきて、統括プロデューサーの私永田にですね、
直接、一字一句こう変えるように、ここを切るように、って言ったのは前代未聞の事です。
水野:
へぇーーー、一字一句。
あの、それはどういう趣旨の部分を切るようにという事だったんでしょう?
永田:
簡単に言えば、「慰安婦なんていなかった」と言われる方は今もおられるんですけれども、
あと、宮沢内閣時代の河野官房長官談話というのが1993年に出るんですけれども、
これに基づいて日本政府の対応が決まっていくんですけれども、
この政府の対応についてもほとんど触れないようにするというぐらい。
水野:ほーー、
永田:つまり「政府方針そのものを否定する」というニュアンスの番組になっていく。
水野:河野談話も否定する内容。
永田:もちろんそうですね。
水野:つまり「従軍慰安婦に政府として関与したという事を認めて謝罪するという意味は全く消せ」ということですね。
永田:そうですね。
これは何か誤解があるんですけれども、
安倍政権の今日ただ今はですね、外交方針として河野談話というのは生きているんですね。
平野:そうですね。
永田:
しかし、安倍さん本人のですね、個人的見解というかですね、それは
「慰安婦問題について河野談話は間違っている」というスタンスは一貫していらっしゃいますので、
その主張をですね、NHKの番組についてもおもちだったんじゃないかというふうに推測されますね。
水野:「従軍慰安婦なんか無かったんだ」という前提で番組をつくれという趣旨の、
永田:
細かいところまではわかりませんけれども、
少なくてもNHKの幹部はそういうトーンで改編というのに、いきなりですね、手を突っ込んできたっていう。
それもだから、
「指示に従って作っていた番組を自らちゃぶ台をひっくり返した」というのは驚くべき事だと思います。
平野:
だから今回のNHKの一連の人事。
安倍さん人事というのは、この時のいわゆるリベンジというか、
この当時批判されましたよね、安倍さんの言動というのを。
だからそれを、「今度はNHKを本当に支配下に置こう」という確固たる意志のもとでですね、
人事を展開したんじゃないかと。
永田:
ま、それは安倍さんに聞いてみないとわかりませんけど、
その安倍さんが籾井(モミイ)会長の一連の妄言ですね、暴言というかそういうものについて、
「政府はNHKに政治介入はしない」というふうにおっしゃっているのは、
なんかすごく皮肉というかブラックな発言のように私には聞こえますね。
平野:そうですね
43:51~
水野:
今回、ラジオの朝の番組でもですね、
ある大学教授が原発について話をしようとしたら、それを変えるように求められたというのがありました。
これはどう見られますか?
永田:
明後日が東京都知事選挙なんですけれども、その争点の中に原発の問題がありましてね。
今回問題になっていたラジオ朝一番というのは3時間の生の情報報道番組なんですね。
その中で第一次安倍政権のしんき会のメンバーでもあった経済学者の中北徹さんという、
非常にオフケン?保守の方なんですけれども、
「コストの面から原発を考えよう」という事を語ることになっていたんですけれども、
今日の国会でも籾井会長が言いましたけれども
「選挙期間中だから、公平中立普遍不当に一層配慮して、出演を止めていただいた」
というふうに言っているんですけれども、
まぁ、なんていうんでしょうかね。
過剰反応といっていいんじゃないでしょうか。
つまり、都知事選の争点は様々ありますし、
原発の問題は国民全体の根本の問題の一つですから、それを経済的側面で語ることに何の問題があろうかと。
で、確かにその朝の生番組は政治家も沢山聞いていて、
ひょっとしたら放送したら政治家が文句を言ってきたかもしれません。
しかしそれは、日常的に文句なんて言ってくるんですから、怖がっていたら何も放送できない。
平野:それはそうですね。
永田:
だからそれを突っぱねるぐらいのNHKの毅然とした態度というのを取るべきだし、
選挙、政局という事に過剰にやっぱり配慮する放送っていうのは、
それは放送の劣化と言わざるを得ないと思います。
水野:その背景にどういうNHK内部のみなさんの気持ちがあるんでしょうね?
永田:
それこそ秘密保護法についてもね、国民の知る権利に直接かかわるような重大問題だったんですけど、
NHKニュースはその問題点についてほとんど伝えなかったということがあるし、
とてもやっぱり情けないことがいろいろ続いているっていうふうに言わざるを得ないと思うんです。
NHKは戦前は情報局の統制下にあって、戦争を国民に導いたという負の歴史があってですね、
原発報道の時も「大本営の発表」とかと言われちゃったわけですよ。
そういう事をとにかく繰り返しちゃいけない。
だから政権に対して、むしろ厳しくあらねばいけないNHKが、
そこに甘くて配慮をし過ぎて忖度をする放送現場というのは断じておかしいと思いますね。
水野:NHKの局員の方達もどうですかね?
永田:
悔しいと思います。
だから籾井さんの発言の後ですね、いろんなところで「これはひどいじゃないか」と。
で、「職員が声を上げるべきなんじゃないか」って言っているわけです。
ところが制度上もですね、職員が会長の首を切るというふうになっていませんから、
だから「遠吠えを上げる」という事だけで本当にいいのか?っていう事なんですけど、
問題は、さっきリスナーの方の質問にもありましたけれど、
市民の方とNHK職員が一緒になって「こんなNHKで本当にいいのか」と。
「我々はもっといい職場に変えていくべきなんじゃないか」と。
「このまま流されていていい筈がない」っていうふうに声を上げて欲しいですね。
水野:
あるリスナーの方はね、
「NHK会長の発言に対してNHKは放送すらしないじゃないですか」とおっしゃっていますが。
永田:
いや、本当です。
だからメディアでNHKのことが話題になっていると。
NHKはニュースを報道する場所で、NHKがニュースのネタになる所じゃない訳ですよ。
ものすごく恥ずかしい。
しかも、恥ずかしいことをNHK自身が伝えないとすれば、
NHKを信じて、日々放送を聞いて下さったり、見て下さる方を裏切ることだと思いますよ。
水野:
この方はこうもおっしゃっていて、
「BBCはじめ欧米の放送局って常に時の政権とバトルをしてきたと聞くんですが」
公共放送のあり方ですね。
永田:
公共放送は国営放送ではないんですね。
つまり、「市民のために」の放送でという事だから戦後ですね、高野会長というのは高らかに宣言するわけですね。
これがだからNHKの基本だと思うんです。
「お上の放送じゃ断じてダメ」で、よく
「みなさまのNHK」みたいなくすぐったい、気色わるっ!みたいなことばってあるでしょ。
そうじゃなくてですね、本当に市民のための放送局にみんなで育てていくと。
ものすごい受信料を積み上げて作ってきた国民のための放送局ですよ。
これは宝なんですよ。
水野:国民の財産と思っていいんですよね。
永田:
だから安倍さんの私物じゃない訳ですね。
だから「市民のための放送たれ」という事だと思います。
NHKがひどくなると被害をこうむるのは視聴者である市民な訳です。
水野:そうだ、そこですよね。
永田:
だから、「公共放送というみんなの宝」をね、「一時の政権の道具」なんていうくだらないものにしてはいけない。
だから「NHKを市民に取り戻せ」という事だと思います。
平野:
永田さんの御本に、永田さんご自身が書かれている
「権力と俗情が結託している様な放送局は公共放送ではない」と厳しく、
今はソフトにおっしゃっているんだけれども、厳しい論調で書かれていますよね。
永田:
「権力と俗情の結託」というのはまさにいま籾井さんが言っている事でもあるし
籾井さんを安倍政権が守ろうとしているということも含めて、
平野:
サポートしている。
それともうひとつ言わせてもらえれば
「NHK内部の権力闘争で政権にすり寄っている人たちがいる」という、これもやっぱり
永田:
思います。
まさに「永田町にいい顔ができて、そこをコントロールできる」っていう幻想を抱いてですね、
NHKの中での立場を強化して、自分がのし上がるみたいな人達が、
水野:はぁ~
永田:そういう人たちがNHKの中で権力を握るという事は断じて許しちゃいけないですね。
平野:今回の籾井さんがどういう会長人事をするのかという事がまた、NHKの役員の人達の関心事になってですね。
永田:
籾井さんが免罪符だけど生き延びた方がその次の人の実質権力が高まるとかですね、
そういう、なんか市民からすれば「なにをやっているんだ」と。
平野:背信行為ですよね。
永田:
つまり、「業務をちゃんとやってくれ」と。
「自分たちの政治の道具とか、権力闘争の道具にNHKをつかうな」というふうに思いますね。
水野:
今のような人事が続いていった時にね、NHKでどのようなことになるのか?
報道姿勢にどのようなことになるのか?っていう心配はいかがでしょう。
永田:
いや、そうだと思います。
ただあのね、やっぱりその、どんなに上が変でも、経営委員が変でも
それぞれの現場の記者やディレクターは日々の仕事を大事に思っていますし、
別に永田町へ向けて放送を出している訳じゃありませんから、そこは大丈夫だろうと思うんです。
ただその人たちが、こう、賢いですから先回りして
「これをやると危ないかな」
「これはやるとNHKの中での立場が悪くなるな」なんていうふうに自粛することは避けて欲しいし、
で、世の中を信用してほしいと思うんです。
「おかしいよ」というふうに一緒に声を上げてくれる視聴者の人とかが沢山いらっしゃる。
それを信じて欲しいと思いますね。
水野:
永田さん達は、OBでいらっしゃるお仲間とともに
「NHKもっと頑張れよ」って現場の人達を応援してらっしゃるんですよね。
永田:
おれはただ、そのETV事件の時に負けた人間ですし、
その、なんていうか世の中の、NHKの外で応援してくれる人たちをやっぱり信頼できずに、
すごく反省があるしやっぱり後悔があるんですね。
だから同じ轍は踏まないで欲しいと、強く思いますね。
水野:永田さんご本人は「NHK、鉄の沈黙はだれのために」って。この鉄の沈黙、ほんとうに。
永田:
だから「職員は黙っていなくていいよ」と。
なにも個人名で戦えと言っている訳じゃないんです、怖いですから組織が。
だから、「みんなで束になって市民と一緒に何かできるといいですね」
水野:
「市民を信じてくれ」というメッセージですね。
今日は元NHK制作局プロデューサーの永田浩三さんにおいでいただきました。
どうもありがとうございました。
永田:ありがとうございました。
53:04
【送料無料】
NHK、鉄の沈黙はだれのために
番組改変事件10年目の告白
[ 永田浩三 ]
価格:2,100円(税込、送料込)
【内容情報】(「BOOK」データベースより)
事件から一〇年がたとうとしているいま、あらためて、NHKはだれのためにあるのかを問いたい。沈黙はなにも解決してくれない。毎日毎日人の道を説き、社会のありようを提言しつづける放送局が、ふだんの多弁とはうって変わって沈黙を守りつづけるのは、どう考えても不自然だ。いま、すべてが語られねばならない。番組はなぜあれほど無惨に書き変えられたのか。事件後になにがおこなわれ、なにがおこなわれなかったのか-。
【目次】(「BOOK」データベースより)
事件の現場にいた人々/わたしたちはいまも過ちを続けている/伊東律子さんの死、永遠の沈黙のはじまり/楽観主義と議論不足が火種を生んだ/番組はこうして改ざんされた/やがて虚しき裁判の日々/だれが真実を語り、だれが嘘をついているか/慰安婦問題と天皇の戦争責任について/番組制作の現場を離れるとき/これからの放送、これからの言論のために
【著者情報】(「BOOK」データベースより)
永田浩三(ナガタコウゾウ)
1954年大阪生まれ。東北大学教育学部教育心理学科卒。1977年NHK入局。1981年、ラジオ・ドキュメンタリー『おじいちゃんハーモニカを吹いて…』で芸術祭賞・放送文化基金賞。ディレクターとして、『ぐるっと海道3万キロ』(アジア放送連合賞)、『日本その心とかたち』、NHK特集「どんなご縁で」(テレビ技術大賞)、『NHKスペシャル』の「又七の海」「社会主義の20世紀」などを担当。1991年からはプロデューサーとして『クローズアップ現代』『NHKスペシャル』を担当し、多くの番組を制作する(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
続きを読む