産婦人科の話
産婦人科医として注目しているのは、
胎児の先天性異常が沢山見つかるようになったという事実です。
私たちは病院のカルテを調べてみましたが、
胎児の先天性異常、つまり、奇形児がチェルノブイリ事故の前に比べて、
事故後2倍以上に増えている事が分かりました。
妊娠異常と出産異常は明らかに増えています。
チェルノブイリ小児病棟~5年目の報告~
1991年8月4日放送
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小熊:
この中に二人程、兄弟が白血病の方がいらっしゃいまして、
特にその二人の子どもさんについて注目して、いろいろと調べてみましたら、
二人ともですね、染色体異常が、安定型の染色体異常というのが認められたわけですね。
これはもちろん、非常に放射能の量としたら1ラド以下で少ない事なんですが、
これくらいの子どもさんで、こういう安定型異常が見られるということは、
過去に、おそらく放射能の影響でですね、
こういうDNAの傷が付いたという、証拠にななると思うんですね。
ゴメリ州立病院
ゴメリ州立病院の産婦人科病棟です。
ゴメリ州で一番の近代的な設備を持つこの病院には、周辺の町や村からも出産を控えた女性たちが集まってきます。
事故の前までは、ここで年間3000人位の新生児が生まれていました。
しかし、親たちが放射能の影響を恐れて、去年は出産数がおよそ半分に減りました。
新生児の健康状態は注意深く観察されています。
異変は生まれる前の胎児に起きていました。

妊婦たちは出産前に必ず超音波検査を受けます。
この日、高濃度汚染地帯の土地ベトカから来た女性が検査を受けていました。
「脳に異常がある」
「水頭症だ。脳の周りの水が多すぎる」

胎児に異常が見つかりました。
頭部に脳脊髄液がたまる水頭症です。
頭部は肥大し、健康な胎児の倍の大きさになっています。
放射線は細胞分裂の盛んな胎児の脳に大きな影響を与えると言われています。
この女性は直ちに人工流産の処置を受けることになりました。
初めての妊娠で7ヶ月目でした。

「これはチャルノブイリ事故の影響だと思います。
とても くやしい
事故さえなければ健康な子が生まれたはずです」

産婦人科 アナトリー・ワシーリエツ部長:
産婦人科医として注目しているのは、
胎児の先天性異常が沢山見つかるようになったという事実です。
私たちは病院のカルテを調べてみましたが、
胎児の先天性異常、つまり、奇形児がチェルノブイリ事故の前に比べて、
事故後2倍以上に増えている事が分かりました。
妊娠異常と出産異常は明らかに増えています。
ゴメリ週の3つの病院の奇形児の発生率です。
緑が事故の前の5年間、
赤が事故の後の5年間のレートです。

ゴメリとブラーギンでは4倍、
ベトカでは事故の前の10倍に増加しています。
特に目立って増えているのが水頭症です。
水頭症の胎児は死産が多く、生まれても正常に育つ可能性はほとんどありません。
汚染地帯の病院では、奇形が分かると人工流産を進めています。
手術は翌日の夜行われました。
彼女は2年前、汚染されている事を知らずにベトカへ嫁いできました。
政府から新しい住宅をもらって安全な場所へ移住する事が彼女の希望でした。
産婦人科 アナトリー・ワシーリエツ部長:
長い間この仕事をしてきましたが、
こういう手術はうまくいっても気分がいいものではありません。
母親にとって、本当に健康な子どもが生まれてくることが喜びです。
しかし今回は不幸な結果となりました。
医師として実に複雑な心境です。
私たちは、子どもの命を救う事が使命なのに、
一方ではその逆の事をしなくてはならないのですから。
彼女には将来、健康な子どもを産んで、いい母親になって欲しい。
そう祈っています。
佐藤教授は産婦人科のアナトリー部長立ち会いのもと、
水頭症の胎児の解剖を
ー画面乱れますー

佐藤幸男教授(広島大学原爆医療研究所):
それと、左の腎臓に水腫が小さいのがありました
あの、ま、骨が弱いから、出産の途中で、だいぶ脳の中に出血して
超音波で見た時は透明なリコー?だったと思いますけれども、血の塊のような状態です。
Q:放射線との関係はどうでしょう?
佐藤:
この個体自身は、広島でも経験している脳水腫で、
解剖によってそれが分かるわけじゃ、決してないんですけれども、
ただ、母親が高汚染地帯からきていますので、
こういう症例が、ずーっと、特に脳水腫が多いという話なので、
そういう症例が積み重なっていくと原因がはっきりしてくると思います。
今年5月、チェルノブイリの事故について一つの報告書が出されました。
国際チェルノブイリ計画調査報告書
IAEA国際原子力機関がソビエト政府の依頼を受けてまとめたものです。
英文で1000ページを超えるこの報告書は、こう結論付けています。
「放射線被ばくに直接起因するとみられる健康障害はなかった」
「今後大規模な疫学調査をしても、がんや遺伝的影響の増加が、
放射線によるものかどうかを見分けることは困難である」
この報告書は白ロシア共和国の医師の間に波紋をまき起こしました。
事故の後小児病棟で起きている異変、その現実はどう説明できるのか?
被ばくした放射線量をはじめ汚染地帯の病気の発生率など、あらゆるデータが不足しています。
広島の医師たちは、放射線の影響については長期間の追跡調査が必要だと考えています。

佐藤:
放射線の影響っていうのは、
先程、あらゆる病気を起こすって言いましたけれども、
人生の、生まれて死ぬまでの流れの中で考えてみますと、
初めに妊娠した婦人が被ばくをすると、胎児の流産・死産が起こると。
そういう障害を乗り越えてきた次の子どもは、奇形になると。
で、それを乗り越えた子どもがようやく正常になる。
そして、生き延びると、たとえばここの場合ですと、甲状腺がんっていうのがあると、あるいは、小児の白血病があると。
それを過ぎると、また今度、大人の白血病。
今の話はチェルノブイリと広島を一緒にした話ですけれども、
次は大人の固形がんという、肝臓がん胃がんというものがある。
で、最後には寿命がどうかという問題ですね。
広島の被爆者の場合は今は、色々と検診制度が高まっているんで、
寿命が延びているというデータもありますけれども、
普通、そういう放射線の障害があると、寿命が縮む可能性があると。

次は、次の世代への影響で、
遺伝的な影響がある。
で、広島ではその遺伝的影響というのは、今のところ見つかっていないというか、見付けられていないというか、
しかし、100%何もないという事は決して断言できない。
そういうふうに、ずーっと見るとですね、
これは、単なる一回の検診とかですね、一度の調査、
あるいは一部の集団の検査で、正常だという事はとても言えない。
それは、本当に、これでもか、これでもかと、いろんな事を繰り返して、
それでも、決して全部、全く関係ないと言う事は、とても言いきれるものではない。
そのための非常に多くの努力や積み重ねというか、そういう事が必要だと。
そういう事を非常に実感しました。
白血病のユーリアちゃんは、繰り返し投与された抗がん剤の副作用に苦しんでいます。
身体に発疹が出て高熱が続いています。
しかし、抗がん剤は当分の間辞めることはできません。

母:
38度4分です。
いつになったら良くなるのでしょう
いつ、この苦しみが終わるのでしょう
ユーリアちゃんを抱いて病院にきてから半年が過ぎました。
ユーリアちゃんは体の抵抗力が極端に低下しました。
感染を防ぐため、ユーリアちゃんはこの日、隔離室に移されました。

チェルノブイリ原発事故から5年。
小児病棟の子どもたちは、今、消えることのない放射能の脅威を訴えています。
ーーー完
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| 2012.06.28 22:25 | 編集