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06.06
Wed
週刊現代経済の死角
2012年06月06日(水) 週刊現代

何もできないから、運を天に任せるで、いいのか 
福島第一原発4号機が「爆発する危険性」をどう考えるべきか
3000万人に避難勧告、そして日本は終わる


原発がないと電力が足りない! 
再稼働の是非に揺れる日本を、世界が危ぶんでいる。
「フクシマ4号機」をなぜ忘れたように放置するのか。
そこで異変が起きれば、明日にも日本は消滅するというのに。

おおむね安全?

「福島第一原発4号機の使用済み燃料プールが崩壊すれば、〝最悪の結果〟を招きます。
たとえプール自体が倒壊しなくても、冷却システムの損傷や漏水などでプールの水がなくなってしまえば、
非常に重大な事態に陥るでしょう」

そう語るのは、元米国エネルギー省長官上級政策アドバイザーで、
使用済み燃料問題の第一人者であるロバート・アルバレス氏だ。

福島第一原発の事故について、政府は昨年12月の段階で「収束宣言」を出した。
事故の被害がこれ以上拡大することはなく、
福島第一は「冷温停止」の状態となり、あとは事故の後片付けだけすれば大丈夫・・・・・・というのである。

だが、「収束」など日本国内どころか、海外でもまったく信用されてはいない。
それを象徴するのが、4月に来日して福島第一の事故現場を視察した米国のロン・ワイデン上院議員が、
その直後にこう訴えたことだった。

「福島第一の原子炉建屋が再び地震や津波に襲われれば、
それらが崩壊して、当初の事故より大規模な放射性物質の放出が起こる恐れがある」
「日本は動きが遅く、危険な核燃料棒を原子炉から取り出していない」
(『ウォール・ストリート・ジャーナル』日本版)

ワイデン上院議員は、こうした趣旨の書簡を、
藤崎一郎駐米大使のほか、ヒラリー・クリントン米国務長官、スティーブン・チュー米エネルギー省長官らに送付。
さらに、同氏へのインタビューをもとに、彼の地元の(オレゴン州)メディアも、こう報じている。

〈Another bomb waiting to go off(炸裂寸前のもうひとつの爆弾)〉
〈ワイデン上院議員は、ヒラリー・クリントンらに書簡を送り、福島第一原発4号機の脆弱性を指摘した〉
〈同氏は、また大地震が起きたら、
オレゴン州や西海岸まで致命的なリスクを与えるような大惨事となるのではないかと恐れている〉

こうした意見を、〝原発安全派〟は笑い飛ばすだろう。
東京電力は
「福島第一4号機がいつか倒壊する」との懸念を払拭しようと、4月26日に公式見解を発表。
4号機原子炉建屋は傾いておらず、燃料プールを含め地震で壊れることはありません」
と火消しに躍起だ。同時に復興庁の中塚一宏副大臣も、5月21日に外国特派員協会での会見で、
「東電の分析では、4号機の建屋は昨年3月11日の揺れにも耐えられる」
などと語った。

だが、そんな楽観論が通用するのか。
東京電力の説明では、4号機建屋は耐震補強工事を施したことにより、震度6強の揺れにまで耐えられるという。
しかし、もしそれを超える地震が起きたらどうなるのか?

東京近郊では現在、M7クラスの直下型地震の危険性が指摘されている。
もしもそれが起きた場合、想定される最大震度は7以上。
福島第一原発の直下にも、「双葉断層」と呼ばれる要注意活断層があることが知られている。
「震度6強までOK」と言うが、それが絶対的な安全を保証するとは、到底思えない。

この疑問は21日の中塚副大臣の会見でも外国人記者たちから指摘されたが、
中塚氏も、同席した原子力安全・保安院の担当者も、最後まではっきり答えることはできなかった。

東京も居住不可能に

米国スリーマイル島の原発事故の調査に参加した経験もある
原子力技術者のアーニー・ガンダーセン氏は、こう警告する。

「事故から1年以上が経過し、東電はようやく4号機に覆いをかけ、
使用済み燃料を取り出すための準備に取り掛かっていますが、あまりに対応が遅すぎます。

4号機の燃料プールに問題が生じたら、チェルノブイリ以上の大惨事になることは確実です。
そうなれば、周囲の広大な土地は居住不能になり、
日本はその居住不可能エリアによって、北と南に大きく分断されてしまうでしょう」

〝列島分断〟---。これは決して大袈裟な表現ではない。
実際、昨年3月の事故直後、近藤駿介・原子力委員会委員長が菅直人首相(当時)に対し
秘かに提出したシミュレーションでは、福島第一が制御不能となり、4号機プールの燃料がすべて漏出した場合、
「半径170km以内は強制移住」
「同250km以内も避難の必要性」
との衝撃的な結論が示されていたことが明らかになっている。

福島第一から半径170kmというと、
北から岩手・宮城・山形・新潟・群馬・栃木・茨城・千葉・埼玉までの、広範な土地が含まれる。
さらに250kmとなれば、東京・神奈川・山梨や、長野の一部なども避難区域となってしまう。
事実上、なんと3000万~4000万人もの人が、自宅を捨てて逃げ出さねばならなくなるのだ。

またしても甘い見通し

こうした恐るべきシナリオに対し、「そんなことは起こるはずがない」という根強い声がある。
しかし、「あり得ない」と思っていたことが、一瞬にして現実のものとなる---
それが、昨年の大震災と原発事故から我々が学んだことではなかったのか。

4号機の燃料プールには、使用済みと未使用のものを合わせ、
1500本、400t以上の大量の燃料棒が置き去りになっている。

東京電力では、まず原子炉建屋に放射性物質飛散防止の巨大な覆いを被せた上で、
プールに沈んでいるガレキを撤去、その後、来年末から燃料棒の取り出しを実施する予定としている。

しかし、それが予定通りに進むのか、現時点で誰も断言できない。

「プールの中には事故の影響で大量のガレキが沈んでおり、
燃料棒が詰まった『燃料集合体』を吊り下げるラックなどが破損している可能性があります。
また、水中に置いたまま、特殊な『キャスク』と呼ばれる容器に収めなければなりませんが、
4号機の場合、燃料集合体が破損している恐れがあり、その場合は専用のキャスクを作り直さなければなりません」
(京都大学原子炉実験所・小出裕章助教)

4号機のプール内には、大量のコンクリート片のほか、
爆発で壊れて吹き飛んだ階段や通路・デッキなど大型の構造物までが落下したままになっている。
しかも、それらは事故当初に冷却のため海水を投入した影響もあり、
燃料集合体ともども、腐食して脆くなっている可能性がある。

高放射線量の環境で、まずはこうしたガレキを取り除くための設備を作り、安全かつ完全にガレキを除去し、
その上でさらに、燃料棒の取り出し作業に取り掛かる・・・・・・それが至難の業だということは素人でも想像がつく。

「核燃料は、ただクレーンを作って引っ張り上げればいいというわけではありません。
万が一、燃料棒が空気中に露出すれば、近寄った人間が即死するほどの放射線を発します」
(前出・アルバレス氏)

たとえ完璧な設備状況であっても、細心の注意が必要な作業を、最悪の条件のもとで実行しなければならない。

「来年末に燃料棒の取り出しにかかるという東電の見通しは甘いのではないか」
と、アルバレス氏は語る。
しかも、この極度に困難な作業は、同時に「時間との勝負」なのだ。

前述のように、4号機は「震度6強」の地震まで耐えるとされている。
だが、京都大学防災研究所の遠田晋次准教授の研究によれば、
茨城・福島付近における東日本大震災の余震は、なんと「100年以上」続くことが予想されるという。

燃料棒取り出しに手間取り、4号機プールに燃料が残っている間に次なる巨大地震が起きたら、
一撃で日本はおしまいだ。

「燃料プールが倒壊したり、水が漏れ出したりすれば、燃料棒の金属被覆(ジルコニウム)の温度が上がり、約800℃くらいで発火、火災が発生して大量の放射性物質を撒き散らします。これは大変深刻な事態で、4号機で火災が発生すれば、計算上チェルノブイリ事故の約10倍のセシウム137が撒き散らされることになる」(アルバレス氏)

いったんこの〝爆発的火災〟が発生したら、もはや完全にコントロール不可能となり、逃げ出す以外に方法はない。
燃料棒の取り出し作業をすべて終えるには、最低10年、あるいはそれ以上の時間が必要とされるが、
その間、一度のミスも許されないのだ。

もしも、作業中に再び大地震が起き、プールから大量の水が抜けて燃料が露出する事故が起きたら? 
作業のために設置した重機が倒れ、プールや燃料集合体を破壊するようなことになったら? 
地震や津波が二度と来ないという保証はなく、事故が起きる理由は無数に存在する・・・・・・。

世界が怒っている

加えて、海外の複数の核専門家からは、NRC(米国原子力規制委員会)の調査などをもとに、
〝予測不能な火災〟が起こる可能性まで指摘されている。

燃料棒やその集合体は、通常、核分裂が起きないよう緻密に計算され配置されている。
だが、それが地震などで変化していた場合、
無視できないレベルの崩壊熱が出続けたり、うまく冷却されなかったりすることで燃料が予想外の反応を始め、
突発的に火災を引き起こす恐れがあるというのだ。

「かつてチェルノブイリでは、原子炉に必要な分厚いコンクリートや鋼鉄の防護壁を
十分に備えていなかったことの愚かさが明らかになりました。

福島第一の事故の場合、地震多発地帯でいくつもの原発を動かし、
地上高くにある脆弱なプールに大量の高放射性・使用済み燃料を貯蔵することの愚かさを、
世界に露呈したと言えますね」(アルバレス氏)

十数年前から脱原発を訴えてきた元駐スイス大使の村田光平氏はこう語る。

「〝フクシマ〟の問題は、4号機の危機を軸に、国際的に広がりつつあります。
米国のワイデン上院議員の訴えもそうですし、
欧州ではイタリアの市民グループが対処を求め、世界規模での署名活動に乗り出しました。
4号機燃料プールが崩壊したら日本だけの問題では済まなくなることを、今や世界中が知っています。

そして各国は、日本政府に疑いの目を持っている。
このままでは自分たちも日本の巻き添えにされる。そんな危機感が燃え広がっている。
日本政府は、それに気がついていない」

この4月に村田氏や小出氏、アルバレス氏ら日米の識者、72のNGOは、
国連の潘基文事務総長と野田佳彦首相に向けて、

(1)国連は福島第一4号機の使用済み燃料プールの問題を取り上げる原子力安全サミットを計画すべき。
(2)同4号機に関して独立アセスメントチームを作り、プールを安定化するための国際的支援をコーディネートし、
  起こりうる大惨事を防ぐべきである。

との趣旨の緊急書簡を送付した。

4号機プールの安定化に向け、国際社会は自分たちの危機を取り去る意味でも、
日本への協力を惜しまない姿勢を見せている。

ところが、肝心の日本政府に、もっとも危機感が欠如している。
あとたった一度〝不測の事態〟が起きれば、日本が終わるどころか、
世界中が放射能汚染の恐怖に晒されるというのに。

原発の再稼働など議論している場合ではない。4
号機で異変が起きれば、この国の未来など完全に閉ざされてしまう。

「週刊現代」2012年6月9日号より
講談社





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