
阿部
「みなさんは今、買い物をするとき、福島産の食品を買っていますか?」
鈴木
「原発事故から2年、福島では厳しい検査が続けられてきました。
ところが、放射性物質が検出されていない食品でも、『福島産』というだけで消費者から敬遠され、
生産者を取り巻く状況はさらに深刻になっています。」
阿部
「みなさんは今、買い物をするとき、福島産の食品を買っていますか?」
鈴木
「原発事故から2年、福島では厳しい検査が続けられてきました。
ところが、放射性物質が検出されていない食品でも、『福島産』というだけで消費者から敬遠され、
生産者を取り巻く状況はさらに深刻になっています。」
神奈川県にあるスーパーです。
ネギや春菊など、福島産の野菜を取り扱っていますが、価格は他の産地よりも安いといいます。
「品物は全然良い。
全然問題ない。
茨城だと100円くらいになる。」
しかし、それでも敬遠する客が少なくありません。
「買ってないです。」
「それはなんでですか?」
「ちょっとまだ心配があるので。」
福島市内の農家、早川和裕(はやかわ・かずひろ)さんです。
農業用ハウスでキュウリを栽培しています。
2月から始まった今年(2013年)のキュウリの出荷。
去年(2012年)の同じ時期と比べて、価格はおよそ20%落ち込んでいます。
早川さんの所属する農協では、国が定める検査に加えて、
1軒1軒の農家に対し自主的に検査を行っています。
農家 早川和裕さん
「よろしくお願いします。」
原発事故後、これまでの2年間、早川さんのキュウリから放射性物質が検出されたことはありません。
この日持ち込まれた早川さんのキュウリからも、検出されませんでした。
農家 早川和裕さん
「“検出せず”でした。
良かったです。
これがないとお墨付きがない。
安心して市場に出荷できます。」
しかし安全性が確認できても、価格は戻りません。
出荷が本格化する夏を前に、早川さんは不安を募らせています。
農家 早川和裕さん
「できる限りのことはやって、安全を確保しているはずなのに、それでも売れない。
“『福島産』だ”という目で見られるだけで、もう土俵が違う。
(農産物が)消費者に行くときに“『福島産』危ないよ”になっちゃう。」
鈴木
「福島の農産物が、市場ではどのような評価を受けているのか。
東京の市場で取り引された平均価格と比較しました。
以前は高い評価を受けていたキュウリ。
しかし、去年は3割以上、安くなりました。
ピーマンは、実に6割以上も安くなっています。
取材にあたった、島田記者です。
2年たっても状況はいっこうに良くなっていないようですね。
なぜこうした事態になっているのでしょうか。」
島田記者
「食品の放射性物質を巡る国の基準への不信感が背景にあると思います。
というのは、原発事故の直後に設定した暫定基準値を、国は1年前に、大幅に厳しくしました。
これによって、基準そのものに対する不信感が消費者の間で広がり、今もそれが払拭されず、
『よく分からないから避ける』という行動につながっていると、専門家は指摘しています。
また、そうした消費者に対して、流通業者も『福島産は買わないだろう』と考え、
ほかの産地を選ぶ傾向がまだ多くあります。
その結果、福島産の取引価格が下がり、生産者を苦しめるという連鎖が続いているんです。」
鈴木
「この連鎖を断ち切るにはどうすればいいのか。
流通業者の間で模索が続いています。」
都内にある青果市場(しじょう)です。
ここでは「市場に出回るものは安全だ」と訴え、福島産の野菜を積極的に受け入れてきました。
ふだんから卸業者や小売店のバイヤーに目にしてもらうことが、
福島産への抵抗感を薄めることにつながると考えたからです。
東京多摩青果 田島孝宏野菜部部長
「徐々に回復しているという実感はあるが、
なかなか震災前に比べると100%の状態には戻り切ってない。
産地が困っている時に“何が必要か”というと、あの時に売り続けるということだったはず。
そのことだけは市場として果たしてきたつもり。」
小売店でも取り組みが始まっています。
全国におよそ1,500店舗をもつ大手スーパーです。
去年6月から、「福島産」の魚や加工品を全国の店舗で常時扱うようになりました。
福島・最大の漁港、小名浜(おなはま)港。
かつては、全国有数のカツオの水揚げ量を誇りましたが、原発事故以降、激減しました。
太平洋の沖合でとれるカツオ。
福島に水揚げすると、「福島産」となります。
そのことだけで、たとえ放射性物質が検出されなくても、価格は大幅に下落していました。
そのため、水揚げする港として福島を避ける船が多かったのです。
こうした状況に歯止めをかけたい。
スーパーでは、福島で水揚げした魚の大半を買いとる方針を打ち出しました。
イオンリテール 水産商品部 松本金蔵部長
「誰かがやらないと、やはり何も変わらない。
机上の空論だけでは何も変わらなくて。
大手として魚を販売しているので、“我々が何とかする”という気持ちで取り組んだ。」
スーパーが買い取りを始めたことで、カツオの水揚げは一昨年(2011年)の14倍と大きく回復。
価格も他の港とほぼ同じになりました。
地元の水産加工業者にも、明るい兆しが見えてきました。
この会社では、スーパーとともに「福島産」のカツオで加工品を開発。
原発事故以来、低迷していた売り上げが15%伸びました。
さらに、大手スーパーが扱うようになったことが呼び水になり、
他の卸や小売業者からの商談が持ちかけられるようになったのです。
小泉食品 小泉重一社長
「他のところから来た方が、“ここは安全だよ”、“大丈夫だよ”と地元のものを食べて頂ければ、
それだけでも発信力になると思う。
重さが違うと思う。
言葉の重さが。
それが風評被害を払拭(ふっしょく)する。」
こうして店頭に並んだ「福島産」。
詳細な産地の情報も提供し、売れ行きは上々です。
「買うことで被災地の方のお役に少しでも立てるなら、
出所がちゃんと分かっているのであれば(復興に)協力したい。」
阿部
「こうして見ますと、流通業者の役割は大きいですね。」
島田記者
「そうですね。
ただ、こうした取り組みはまだ一部にとどまっているのが実情です。
これから、より多くの流通業者が取り組んでいくことが、求められていると思います。」
鈴木
「私たち消費者自身も、現状を知ることが必要ですね。」
島田記者
「私たち消費者自身も、『何となく不安』とか、
漠然としたイメージだけで福島産の食品を避けるという、『意識』や『行動』を変えることが必要だと感じました。」