2015年4月1日(水)藤本順一さん&前田真里さんNYリポ
上杉隆
川島ノリコ
藤本順一(政治ジャーナリスト)
前田真里
(45秒ぐらいから文字起こし)
吉田照美:
ここのところ非常に日本の政治の状況なんかが、
僕は個人的には非常に由々しい事態を迎えているななんていうふうに思うわけなんですけれど。
ちょっと前に三原じゅん子さんの”「八紘一宇」発言”がありました。
ついこの間は安倍首相の”「我が軍」発言”っていうのがあって、
菅官房長官がそれにまた追随して、結局認めてしまうという、
非常になんか昔では考えられないような状況で物事が進んでいるということなんですけれども、
こういう時にこそですね、昔「広告批評」という素晴らしい雑誌がありまして、
天野祐吉さんが編集長だったんですが、
そこで反戦コピーというのが当時出ていまして、
糸井重里さんコピーそして浅葉克己さんデザインの素晴らしい、「まず、総理から前線へ。」という素敵なキャッチコピーがあったんですけれども、
「これが今のこの状況下では非常に力になりうるコピーかな」なんて思って、
僕なんかは結構番組の中でも紹介したりしてたんですけれども、ラジオ等でですね。

しかし、ついこの間、毎日新聞の糸井重里さんのロングインタビューというのがありまして、
そこで糸井さんが「実はあのコピーというのは、当時天野祐吉さんに言われて、頼まれて作ったもので、内容もちょっと浅かった」という発言をされまして、ほぼ完全否定に近いようなお話をうかがって、僕は軽いショックというか、むしろ相当後々重くなって今堪えているという、それを今回題材にさせていただきました。
今回のニューズ・油絵は「悲しいニュース」というタイトルでこんな作品になりましたのでご覧いただきます。

はい、これでございますね。
残念です。

ま、なんとかこれね。
今の糸井重里さんが、今の浅かったんだから、今のこの状況下でもっと素敵なコピーをですね、作っていただけたらなと、切望している次第であります。
今月はこんな悲しいニュースなので、あまりジョークを言う気がありませんので、
来月一つジョークはかまさせていただきます。
今回「悲しいニュース」をお届けさせていただきました。

上杉:
素晴らしい。私はこれを見た瞬間絶賛しました。コンセプトも。この表情もいいですね。
もうメッキが剥がれた感じですね。
糸井重里さんは、別に僕は悪い印象は持っていなかったんですけれど、
2011年の震災以降の発言があまりにも薄っぺら過ぎちゃって、
「大丈夫かな」という気になってたんですけど、ついに言ってくれましたね。
藤本:何、何を言ったの?
上杉:
原発の対応の、もう、元々の迫力もないし、切れ目もないし、もう完全に権力側に寄っちゃったなという。
コピーライターなんだからね。と、思っていたらついに照美さんが
「まず、総理から前線へ。」っていうあのキャッチコピー。
「これは天野祐吉さんに頼まれて自分の心じゃない」と言って自分で作った作品を自分で否定しちゃったので、
だったらこういうふうに破っちゃったほうがいいんじゃないかと。
藤本:ああ、そういう意味なんだ。
上杉:こういうことなんです。
藤本:
この世代のこういう文化人ってね、似非(えせ)が多いんですよ。
「ベトナム反対」とか「女性の権利なんとか」と言ってても、自分のタレントの付加価値をつけるためにやっている人が多いから、ま、所詮そんなもんでしょう。
上杉:
照美さんはショックを受けて、
当時は糸井さんが「まず総理が前線へ」と、これを書いたんで「おっ」と思っていたのが、
実は「あれは僕が書いたんじゃないよ」と「天野祐吉さんに頼まれたから書いたんだよ」と。
「今頃言うな」と。
しかも天野祐吉さんが亡くなってからね。
川島:そうですよね。
上杉:だったら「天野さんが生きているときに言えよ」と、「あんたに頼まれたんだよ」って。
藤本:
林真理子さんとかこの年代の人たちってみんなやっぱりひと塊りにいて、
その前はサントリーの広報部がひとつの情報とか文化の発信基地になったりとか、
こう、時代と本音があるんだろうけど、安保世代でしょ?この人たちはね。
全共闘世代だよね。
上杉:糸井さんはそうですね。
藤本:
その前の開高さん(開高健)の時代は全学連の時代からちょっと前の人たちでしょ。
だから時代によってね、こういうグループがいるんですよ、やっぱり。
と思うけど、後ろにちゃんとね広告代理店がついてやってるんだから、所詮そんなもんですよ。
そんなものに踊らされていた当時の若者が信じられないけどね。
川島:
先日吉田照美さんとアーサー・ビナードさんのトークショーがあって私もお邪魔してきたんですけど、
まさに上杉さんがおっしゃったように、天野さんが亡くなってからこんなことを言うなんて。
照美さんも「糸井さんのことをすごく好きだったけれども残念だった」っておっしゃってました。
上杉:卑怯なんですよね。


糸井重里さん・後編 「ほんとうかな」と自問する力
毎日新聞 2015年02月17日 (より、一部転載)
インタビューに答える糸井重里さん=東京都港区で2014年11月13日、小川昌宏撮影
◇糸井さんの後悔 「まず、総理から前線へ。」
−−確かにそうですね。糸井さんが「ほんとうかな」が足りないで失敗したというのは……。
糸井さん
実際にやったことじゃないけど、例えば徒党を組むようなことにはならないように気をつけてますね。そういうことも吉本隆明さんから学んだかもしれない。吉本さんも徒党を組まないから言えたことがいっぱいあったと思う。
政治として都合が良いからっていう理由で集まるグループってなんでも党派になるじゃない。でも存在は否定しないですよ。加わらないってだけで、そこから離れて、用事がある時に会いましょうで、僕はいいんだ。党派の中でももめることってあるじゃない。そうすると「ほんとうかな」が足りなくなるんだよね。徒党が主人公になる動きは人間を変える。それは居心地が悪いんだよなぁ。
昔、天野祐吉さんが雑誌「広告批評」で反戦広告特集(1982年)をやるというからお手伝いしたんです。天野さんは個人的にとてもよくお付き合いしていただいて、企画も良いと思った。当時、僕は勢い余って2枚作ったんです(※天野さんは「広告批評」元編集長。コラムニストとしても活躍した。2013年死去)。
一つは「とにかく死ぬのヤだもんね。」ってコピーです。どっちが正しいかというんじゃなくて、死ぬのが嫌だという視点から反戦ポスターができると思ってテーマにした。これは別に評判をとらなかったけど、当時は「まぁいい出来だ」と思っていた。でも、いま考えると「言葉としてできてねぇな」って思う。
戦争を美化したいとかそんなことではなくてね、戦争以外でも人ってもしかしたら何かのために死んでもいい、という気持ちになるかもしれない。それもまた人間ですよね。人間を二層、三層まで掘って捉えるということができていない言葉だなって思うわけ。今批評するなら、それは戻してって言います。
もう一つは「まず、総理から前線へ。」。これは話題になりました。今もインターネットで話題になっていると聞いています。でも、これも今なら戻してって言いますよ。
戦争に対する考えが深まっていないですよ。戦争はゲームや子供のチャンバラごっこではない。単純に戦争になった時に総理が前線に行けばすむっていう話じゃないんじゃないって思う。これは何かをやりたければ、「○○をやってから言え」っていうのと同じ論理だもん。紋切り型を上手な決まり文句にしただけですよ。決まり文句で批判するだけで、戦争を無くすこともできなければ、実際のところ何にもなんない。ちょっと考えが甘いし、鳩の絵を描けば平和っていうのと同じ感じで引っかかります。
これは天野さんの義理立てで引き受けちゃった仕事だから、どっかで自分がいいと思ったものじゃなくて、「天野さん、こんなので良いでしょ。こういうものが好きでしょ」って出したところがあると思う。やっぱり義理で引き受ける仕事は後で自分を苦しめるよって思った。
どちらも良いコピーだと思わない理由は「ほんとうかな」が弱いことです。ほんとうにそれでいいのか、と問いかけて出てきたコピーじゃない。これが嫌なんですよ。「ほんとうかな」が足りない形で引き受けるべきではなかったと思う。「自由にやりたいことをやる」を守ることはとても難しいことだけど、変に曲げるべきではなかった。
徒党に加わると、自分が変わっちゃうし、相手が良い人だと余計に自分を曲げてしまうんだよ。ちょっと上手に言い換えて新しいと思わせようとしているし、「これで読者に受けるぞ」って狙っているわけ。狙った仕事なんて自分に対してウソをついていると思うな。
チームプレーはあるんだ。でも、それはとても危ないことですよって知っていて、何をやらないって約束を守らないと人間関係でがんじがらめになりますよ。
インターネットも個人よりも徒党のメディアになっていないかな。個人よりも徒党が見えやすくなる空間になっているように見えるけど。
糸井 重里(いとい しげさと、1948年(昭和23年)11月10日 - )
日本のコピーライター、エッセイスト、タレント、作詞家。株式会社東京糸井重里事務所代表取締役社長。フィールズ株式会社社外取締役。妻は女優の樋口可南子。愛犬はジャック・ラッセル・テリアのブイヨン、日本モノポリー協会会長。血液型はO型。
「とにかく死ぬのヤだもんね。」(デザイン:副田高行 コピー:糸井重里)

天野 祐吉(あまの ゆうきち、1933年4月27日 - 2013年10月20日)
日本のコラムニスト。雑誌『広告批評』主宰者、マドラ出版社主。
天野祐吉さんのブログ↓
天野祐吉のあんころじい
とにかく死ぬのヤだもんね [ことばの元気学]
2008-01-14 00:23
むかし、「広告批評」の編集長をしていたころ、日本の代表的な広告制作者の人たちに、「反戦広告をつくってみてください」とお願いしたことがあります。これは、そのときにつくってもらった十数点の中のひとつです。(広告批評1982年6月号所収)
は糸井重里さん、は浅葉克己さん。26年後のいま見ても、ちっとも古く感じないところがすごい。それどころか、憲法(9条)改定が大きな問題になっているいまこそ、こういう広告がモノを言うんじゃないかという気がします。
それにしても、こういう広告をつくるのはむずかしい。これにくらべたら、戦争を進める広告をつくるのは簡単です。恐怖心や敵愾心を煽ればいいんですから。「戦争を売るのはやさしいが、平和を売るのはむずかしい」と、亡くなった哲学者の久野収さんも、よく言っていました。
ところで、糸井さんはこのとき、もうひとつコピーを書いてくれました。
「とにかく死ぬのヤだもんね。」
というんです。
「まず、総理から前線へ。」もいいし、そのほうが多くの人に届きやすいとは思いますが、ぼくはどっちかと言うと、「とにかく死ぬのヤだもんね。」のほうが好きです。
もっとも、人はそれぞれで、当時このコピーを見た社会党のある人は、こう言いました。
「面白いけど、“とにかく”というのにひっかかりますね。これだと、病気で死ぬのも交通事故で死ぬのも含まれちゃう。やっぱり、“戦争で死ぬのはいやだ”と、はっきり限定すべきでしょう」
人はそれぞれとは言え、これには驚きましたね。とかく政治家には、頭がいいのに、表現というものがわからない人が多い。このコピーのいいところは、「とにかく」という一語にあるんですね。「病気や交通事故で死ぬのはいいけど、戦争で死ぬのはいやだ」なんて、フツーの人は死因を分けてなんか考えない。分けて考えるのはリクツってもんでしょう。とにかく、死ぬのはヤなんです。当然、「戦争」で死ぬのもその中に含まれる。それでいいじゃないですか。だいたい、反戦で頭がいっぱいになっている人には、こういう広告は必要ない。こういう広告を見てほしいのは、フツーの人たちなんですから。
それに、この広告は、病院や警察が出すわけじゃありません。反戦を訴える市民団体みたいなところが出すわけですから、戦争で死ぬのはヤだと言ってるくらい、誰にだってわかる。それなのに、コチコチの頭でリクツをこねる人がいるんです。そういう人って、とにかくヤだもんね。
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