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12.14
Mon
【第40回】 2015年12月2日 広瀬 隆 [ノンフィクション作家]
芸人のわたしが、
舞台よりも「東電本店」に
通った理由

――おしどりマコちゃん×広瀬隆対談【パート1】
『原子炉時限爆弾』で、福島第一原発事故を半年前に予言した、ノンフィクション作家の広瀬隆氏。
壮大な史実とデータで暴かれる戦後70年の不都合な真実を描いた『東京が壊滅する日――フクシマと日本の運命』が増刷を重ね、第6刷となった。
本連載シリーズ記事も累計295万ページビュー(サイトの閲覧数)を突破し、大きな話題となっている。
このたび、新著で「タイムリミットはあと1年しかない」とおそるべき予言をした著者と、吉本興業所属の芸人・おしどりマコちゃんが初対談!
おしどりマコちゃんは、フクシマ原発事故以降、マスコミ記者顔負けの「ロジカルな質問力」で東電幹部も答えに窮する場面も多数あったという。
芸人ながら、タブーといわれる原発事故の真実に、詳細なデータベースで迫る稀有な女性だ。聞けば、以前、鳥取大学医学部生命科学科に所属していたという。
そんな折、8月11日の川内原発1号機に端を発し、10月15日の川内原発2号機が再稼働。そして、愛媛県の中村時広知事も伊方原発の再稼働にGOサインを出した。
本誌でもこれまで、39回に分けて安倍晋三首相や各県知事、および各電力会社社長の固有名詞をあげて徹底追及してきた。
スベトラーナ・アレクシエービッチ著『チェルノブイリの祈り』がノーベル文学賞を受賞した今、精神論やきれいごとでなく、真の科学的データで迫る姿勢が日本でも問われている。
なにごともなかったかのように、次々再稼働される日本の原発。
本当にこれでいいのか?
安倍政権により、真実の声が消される中での対談1回目をお届けする。
(構成:橋本淳司)

原発事故後、
すぐに東京脱出を図った芸能人たち



広瀬 マコさんは月刊誌『DAYS JAPAN』(2015年7月号)で、

「福島県『県民健康調査』検討委員会『甲状腺検査評価部会』小児甲状腺がん『多発』認める。」

 という力強い記事を書かれています。
 マコさんの文章を読んでいると、いつも「この人は、どうしてこんなに才能豊かなんだろう」と思ってきました。取材が的確で、記憶力が抜群です。

 30年以上この問題に関わってきた私が、ずっと驚き続けています。相棒のケンちゃんに言ったことがあるけれど、この人は天才ですね。でも、吉本興業所属の人気の「おしどり」という芸人さんなんですよね?

マコ ここにいる相方のケンちゃんと、「夫婦漫才」をやっています!私はフクシマ原発事故が起きてから取材を始めました。それまでは取材することなんて、考えたこともありませんでした。

広瀬 漫才師がジャーナリストも始めた、きっかけは、何でしたか?

マコ 2011年に東京に出てきて、すごく張り切っていたんです。私たちは元々西日本の人間でしたから。春休みに、品川よしもとプリンスシアター(4年前に営業終了)の看板キャラクターにしてもらい、楽しみにしていました。その矢先に、東日本大震災と福島第一原発事故が起こったんです。

広瀬 事故が起こったときに、芸能人としては、どうしていたのですか?

マコ 劇場の楽屋で仲間と話していると、東京のタレントが西へ逃げているのがわかりました。芸人も逃げますし、芸人の子どもも、みんな逃げていたの。
 楽屋では、先輩が真顔で、
「車じゃ東京から逃げられないから、みんな、オフロードバイクを買おう」
 と言ったことがありました。
 自分と奥さんの分は買ったけれど、この楽屋にいる人数分だったら手配できるから、「ほしい人は手を上げてくれ」と。

広瀬 オフロードバイクって、山道でも走れるマウンテンバイクのようなものですね。それほどみなさんが必死で逃げようとしていたのですか。知りませんでした。

マコ 東京の楽屋では、毎日そんな話ばかりでした。あるタレントさんが、TBSの冠番組の収録を大阪のMBS(毎日放送)で始めたとか、ミュージシャンが番組で「東日本、がんばろう」って言っているけど、実は全員大阪にいるとか、ね。そういうのを「ツイッターでバラしてやろうか」と言う人もいて……楽屋で崩れ落ちて泣く人もいました。

広瀬 自分たちが、取り残されたような気持ちになったのかもしれませんね。

マコ 私も複雑な思いでした。私たちは春休み子どもキャンペーン(2011年3月19日~31日)だったので、劇場に遊びにきた小学生以下の子どもたちに、ケンちゃんが「天使の羽」を針金でつくってプレゼントしていました。
 でも、タレントは東京から次々逃げている! 劇場に出ている先輩の子たちも東京にいない。それなのに、東京の劇場にファンの子どもたちを集めている! こんなこと、ものすごい矛盾じゃないですか。
 本当は舞台上で、「東京は危ない。逃げられる人は逃げたほうがいい」としゃべりたい! そのことを支配人に相談したら、「何を考えているんだ!」と怒られました。

広瀬 会社としては、原発のことにふれたくなかったのですね。

舞台よりも東電へ! の理由

マコ それで、子どもたちにプレゼントを渡すとき、私が書いた記事も一緒に読んでもらうことにしました。
 記事を書くならば、しっかりした一次情報を取ろうと思って、インターネットで東京電力のライブ中継をつけっぱなしにして、一字一句書き起こしていました。
 すると、会見で出てきた情報が、肝心のテレビに全然流されないことがわかりました。

広瀬 都合の悪い話は、あのころ、テレビ局が表に出さなかったのです。

マコ 会見場の様子を見ていると、質問したくて手を挙げ続けながら、まったく当ててもらえない記者がいました。司会者がその人を露骨に避けているんです(笑)。たまに司会が変わって、そういう人に「間違って」当ててしまうと、ほかの記者が、
「おまえの質問なんか誰も聞きたくない!」
「そんな質問は後にしろ!」
 と野次るんです。

 ニュースが信用できないから、記者会見をライブで見始めたのに、突っ込んだ質問をする記者は黙殺されて、あたりさわりのない質問をする記者だけがよく当たるのよ。あまりにもひどいので、腹が立ってケンちゃんに、
「記者会見に行って、『私たちが聞きたいんです』と言い返してやろう」と。

広瀬 上杉隆さんも、あの時の記者会見の異常さを言っていましたね。
 ところで、マコさんが取材している東京電力の記者会見は、いつ、どこでやっているのですか?

マコ 原発事故が起こった2011年3月は、時間に関係なく記者会見がありましたけど、その後、少しずつ回数が減ってきました。いまは、毎週月曜と木曜の午後5時半から東京電力の本店でやっています。

広瀬 それに、ずっと出ているのですね?

マコ 行けるときはほぼ全部出ています。舞台よりも東電に行くほうが多いですからね。

広瀬 偉いなあ。驚きます。でも、事務所(吉本興業)からは止められなかった?

マコ すぐに怒られました。当時のマネージャーに「原発にふれる限り、おしどりの仕事は取らない」と言われました。「傷がつくからダメだ」って。

広瀬 誰が傷つくの?

マコ そう、変よ。だから「私たちの人生だから、仕事がゼロになってもいい! 傷がついてもいいんです」って言ったら、「違う、傷がつくのは会社だ!」と(笑)。

広瀬 へえ、これは驚いたね。

芸人を辞めないと、
発言できないなんておかしい!

マコ だから、原発事故の取材を始めるときに、ケンちゃんに言ったんです。

「吉本を辞めることになるかもしれない。ヘタしたら芸人も続けられない。ごめんね、ケンちゃん、でも私、いま取材したいの」って。

 するとケンちゃんが、

「いいよ。芸人を辞めることになっても、ついていくから」

 と言ってくれて(涙)。
 次の瞬間、ケンちゃんが本屋さんに行って、農業を始める本と、ネットショップを立ち上げる本を買ってきたのです。早い、早い。早すぎるわ!(笑)

広瀬 農業をやっても、ジャーナリストをしてもいいけど、おしどりマコちゃん・ケンちゃんは、芸人を辞めたら絶対ダメだよ! 芸人を続けるからこそ、二人の才能が生き続けるんだ。

マコ そうですね。自分たちは劇場の楽屋で、あの状況がおかしいと思っている先輩たちがたくさんいることを知っていたので、吉本を辞める前例になりたくなかったの。だから、仕事がゼロになっても、吉本に居続けてやろうと思いました。辞めないと、社会のことや原発のことを考えられないというのが、私は一番イヤだと思ってたの。

広瀬 しかし、尋ねにくいけれど、会社との関係は、その後大丈夫ですか?

マコ あるとき「AERA」の記者が、吉本を通して、私が取材している人を紹介してほしいと言ってきたのです。
 私は、「その記者さんと一度お話をさせてもらえますか」とマネージャーに言ったのですが、「とにかく教えろ、調べるぞ」みたいな話になってきたので、これはちょっと面倒くさいことになったなと思って。吉本に「辞めさせてください」と伝えました。
 するとマネージメントのトップが、
「いま、その理由でおしどりが辞めると、全面的にうちが悪いことになるから、保留にしてくれ」
 ということになり、そのあと体制を変えてくれて、マネージャーも変わって、すごく動きやすくなりました。
 誰も私たちのマネージャーはやりたがらないと思っていたら、たまたま大学院で「戦前のジャーナリズム」という修士論文を書いた変わり種の人がいて、引き受けてくれました。それからは、取材についてはマネージャーに報告すれば黙認です。

広瀬 でも普通の舞台では、原発の話はしないというか、できないでしょうね。

マコ 劇場ではあまりしないのですが、相方のケンちゃんは、お客さんのリクエストに答えて針金細工をつくる芸人なので、ときどき「原発つくって」と言われます。

広瀬 原発の何をつくるのですか?

マコ 原子力のマークとか、沸騰水型軽水炉をリアルにつくったりとか。ほら、このイヤリングも。

広瀬 ほうっ、ケンちゃんは、芸術家だけれど、細工の名人だね。
 しかし、芸人さんは、テレビでは原発の話はタブーでしょう?
『笑点』で三遊亭円楽が、ときどきポロッと「再稼働やめろ」というようなことを言ってくれるので、うれしいけれど。


マコ たまたまかもしれませんけど、2012年の秋に、その円楽師匠の事務所のツアーで北海道を回らせてもらって、ありがたかったです。ケーシー高峰先生と、おしどりで。
 ケーシー先生はいま、福島県のいわきにお住まいで、2011年にテレビに出演されたとき、白衣をバッサバッサして、「放射能の産地からきました。みなさんに放射能をプレゼントします」と言って、それがテレビで流れました。

広瀬 それはすごいね。ケーシー高峰はもう80歳を超えているけれど、うまいですね。私は大ファンです。


マコ はい。今年81歳です。「ケーシー先生には誰も注意できなかった」ということらしいですけど、テレビだから衝撃でしたよ。

広瀬 芸能界の大変な、そして貴重な裏話を聞かせていただきました。芸能界にも希望がありますね。

 次回は、「福島県「県民健康調査検討委員会」を牛耳る“二枚舌座長”星北斗の罪」についてお話ししましょう。

(つづく)


福島県「県民健康調査検討委員会」を
牛耳る“二枚舌座長”
星北斗の罪

――おしどりマコちゃん×広瀬隆対談【パート2】

福島県の小児甲状腺検査の判定区分



広瀬 マコさんは、医学部出身で、医学の知識が豊富で、被曝問題をずっと追及してくれているので、被曝の現状について、調べたことを話してください。福島県に、よく行っているのでしょう?

マコ 福島県はもちろんですが、被曝に関して気になっているのは周辺の県です。
 千葉県の柏市や、松戸市など、福島以外で甲状腺検査をしている自治体を取材していますが、自治体ごとに判定基準が違います。

広瀬 どのように違うのですか?

マコ 福島県の小児甲状腺検査の判定区分は、下記の4つです。

A1:「結節やのう胞を認めなかったもの」(次回の検査まで経過観察)
A2:「5.0ミリ以下の結節や20.0ミリ以下ののう胞を認めたもの」(次回の検査まで経過観察)
B:「5.1ミリ以上の結節や20.1ミリ以上ののう胞を認めたもの」(A2の判定内容であっても、甲状腺の状態等から二次検査を要すると判断した方については、B判定)
C:「甲状腺の状態等から判断して直ちに二次検査を要するもの」

 福島県では甲状腺ガンの悪性ないし悪性疑いが138人と言われていますが、二次検査を必要とするC判定は1人です。
 柏市では、Bが7人、Cが11人(最新10月末の公表で増)ですが、福島県のように「ただちに二次検査」ではなくて、「専門医に回す」となっています。



広瀬 どうして、そうなったのですか?

マコ 福島県では専門医が診て、サイズが小さくても怪しいものは「B判定」、急を要するものは「C判定」としています。
 ところが、福島県以外の自治体で検査をしているのは、必ずしも専門医ではない場合もありました。触診して、結節や、のう胞のサイズはわかりますが、それ以上のことは専門医に診てもらってほしい、ということで、BやCの判定結果をつけています。

 いい検査をしているのが、北茨城市です。
 茨城県の一番北にあって、福島県いわき市に隣接しているところです。ここでは、福島県と同様の考え方で、2011年の東日本大震災が起きたときに、北茨城市に住んでいた18歳以下の市民すべてを対象に検査しています。
 それも希望者だけではなく、全員に通知して、日立メディカルセンターで検査しています。
 3593人を調査し、甲状腺ガンと診断された人が3人いました。これはとても高い比率だと思います。

広瀬 もともと100万人に1人か2人しか発症しない、稀なガンが甲状腺ガンですからね。

北茨城市を見習え

マコ 北茨城市は、来年度から2巡目の検査もする、としています。
 そういうことを決めているのは北茨城市だけです。
 そのほかの自治体では、検査をしている担当部署が、福島県の検査内容を理解していないこともあります。
 たとえば、A1、A2は「経過観察不要」と発表している自治体がありますが、福島県ではA1、A2でも2年後、20歳を超えると5年後に経過観察としています。

 1回目は、いままで甲状腺ガンの検査をしていない人たちが一斉に検査をするので、事故前に元々あったガンを見つけるケースもあり得ます。

 でも、2回目の検査で、小児甲状腺ガンの悪性ないし悪性疑いと診断された25名のうち、13名は1回目の検査ではA1判定です。つまり、甲状腺に何もなかった状態だったのに、2~3年後には手術するサイズの腫瘍ができているのです。稀少なガン、進行が遅いガンという説明でしたのに、これは大問題だと思います。

広瀬 このダイヤモンド書籍オンラインで、前回に対談してくれたOurPlanet-TVの白石草(しらいし・はじめ)さんも、そのことが重大事なのだと言っています。
 茨城県は全市町村で検査するべきだと思います。県の全域が汚染されたのだから。

マコ そうです。医師に取材すると、日立市、高萩市など、福島県に近い茨城県の北部で甲状腺ガンが出ています。親子二代、三代続けてきた開業医が、自分の診療圏では数十年にわたって子どもの甲状腺ガンなんて一人も出なかったのに、原発事故のあとに発症してきているので、この事態に大きな疑問を持っています。

 ダイヤモンド書籍オンライン第39回で紹介されているように、岡山大学の津田敏秀先生が2015年10月8日に、東京都内の日本外国特派員協会で記者会見をして、

「1986年に起きたチェルノブイリ原発事故のあとに甲状腺がんの発症が多発したケースが、福島に重なる事態は避けがたい」

 と警告されていますが、その津田先生が、

「福島県より人口密度が高い茨城県で、患者数が増える可能性がある」

 とおっしゃっています。放射性ヨウ素の汚染プルーム(放射能雲)は、福島第一原発から南の方向に濃いものが流れ、沈着せず、関東地方の全域に、東京まで広がりました。そして、汚染プルームが流れた時間帯が、福島県では早朝ですが、茨城県では昼すぎだったので、人が外に出ている時間帯だったとのことです。

中絶してもデータに残らない!?

広瀬 そうです。私は、原発事故が起こった当時、茨城の人たちが送ってくる放射能の線量データをずっと見ていました。時々刻々と線量の高い地域が南に広がって、東京に向かってきました。怖かったです。

マコ さて、医学的にどうすればいいかと考えていたとき、チェルノブイリのベルラド放射能安全研究所のヤブロコフ博士から、

「できるだけ公的な調査結果を集めなさい。公的なものでしか勝負できないから」

 と言われ、私も集め始めました。

「わかりました。でも、念のため言っておきますけど、私、芸人ですからね」

 と答えましたけど……(笑)。

広瀬 医学者としてのマコさんが集めた公的なデータは、どのようなものですか?

マコ 医学者として集めているわけではなく、お医者さまに協力していただいています。1つは心電図です。学校保健法で、小1と中1と高1の心電図検査をすることが決まっているので、自治体に情報を開示請求して、それを集めています。
 心電図で異常がわかるのは稀ですが、生活クラブ生協取手支部などの調査では、原発事故の前と後で異常が増えているのではないかという結果もあります。
 学校の保健室と、養護室の記録も重要です。

 先生によって書き方は違いますが、注意深い先生の記録は「鼻血○人、腹痛○人、頭痛○人」に加えて、「腹痛の部位や、頭痛の症状」も書かれています。同じ先生が数年にわたってこのようなデータを取っていれば、比較できると思います。

広瀬 そうでしたか。私が個人的に聞いている話では、人口流産を推奨するケースが福島県内で多いようですが、堕胎について、何か資料はありますか?

マコ 私も取材するうち、医師から堕胎を勧められた人に何人も会いました。
「被曝しているから、堕ろしたほうがいい」と。旦那さんにも、家族にも言っていない、というケースもあります。

広瀬 すると、そういう数字は、データとして出てこないですね。

マコ 出てきません。福島県の妊産婦調査では、母子健康手帳を発行する前の中絶はカウントされません。だから、福島県の妊産婦調査での、中絶、流産は、明らかに実際より数字が少ないのです。
 私が取材して知った中絶数より妊産婦調査の数字が明らかに少ないため、県民健康調査検討委員会を取材すると、母子健康手帳発行後の中絶・流産のみの数字ということでした。

二枚舌座長・星北斗の罪

広瀬 マコさんは、その福島県「県民健康調査検討委員会」が開かれるたびに足を運んで、福島県の医師にも取材していますね。

マコ 毎回ではないですが、2011年に公開になってから、ほとんど取材しております。
 福島県「県民健康調査検討委員会」の星北斗座長は、県の検討委員会で言っていることと、東京の規制庁や、環境省の検討会に呼ばれて言っていることが、異なります。

 私は何度も、福島県の検討委員会に、
「甲状腺だけでなく血液検査の情報を出してほしい」
 と言ってきました。職員の方から「次回に出ます」と言われたことがありましたが、結局出ませんでした。理由を担当者に聞くと、「星先生が出さない」と言われたので、と。

 記者会見で質問すると、星座長が、

「世間が興味があるのは甲状腺の結果だけだから、その他の検査結果は出さなくていい」

 と指示したとのことでした。ところが、その数日後の環境省の検討会では、

「世間の興味が甲状腺にばかり向いてしまっている。他の健康調査もやっているので、それらも問題として議論していただきたい」

 と発言していました。

広瀬 自分がデータを出さないと決めておきながら、一方で、逆のことを言っている。あの男は、政治的で、信用ならない。
「県民健康調査検討委員会」は、副座長も「福島県民の被曝量はきわめて小さい」というような、実測値の根拠のないことを言うし、実に怪しげな集団だ。


マコ 福島第一原発の事故現場で働いてきた作業員の被曝線量もおかしいのです。作業中の線量は、電離放射線障害防止規則に基づいて測定されています。
 その一方で、普通に生活しているときの内部被曝線量は、2011年3月11日~7月11日までの4ヵ月間の行動記録から計算されています。
 でも、これを合算していない! 私は、「生活時の被曝線量と作業時の被曝線量を合算すれば、線量限度を超えるのに、どうして合算しないのか」

 と毎回質問してきました。

 そうしたら、その3日後に、星座長が環境省の検討会で、

「作業員の方々の被曝線量も、県民として仕事中のものと、生活圏のものと、一括して評価してくれる部署をぜひつくってほしい」

 と言いました。


広瀬 自分が「合算しないように」しておいて、環境省では逆を言う。のちのち追及されないように、アリバイをつくっているわけだ。けしからん男だ。
 福島の検討会では「安全安心」を強調して、被曝の影響がないかのように宣伝する。こういう人間が検討委員会を取り仕切っているので、このままでは本当に心配です。

 次回は、「半径2メートルに公安が立っている『異常な日常』」について、マコさんのおそろしい話を聞きましょう。

(つづく)



半径2メートルに
公安が立っている「異常な日常」

――おしどりマコちゃん×広瀬隆対談【パート3】

報道関係者は
なぜ、自死したのか?



広瀬 今年の11月1日に、おしどりマコちゃん・ケンちゃんの司会で「STOP伊方原発再稼働! 11・1全国集会in松山―福島をくり返さない―」があり、私も行ってきました。

 愛媛県知事の中村時広が伊方3号機の再稼働に同意した直後の集会で、全国から4000名が参加し、「再稼働を許さない」と訴える人たちの熱のこもった集会でしたね。
 そのときのステージで、マコさんが「原発事故が起こってから、知り合いの人が6人亡くなった」と言っていたことが気になりました。
 くわしい話を聞かせてください。

マコ 病死が2人、自死が4人です。報道関係が4人で、研究者が2人です(今は、病死が3人、自死が4人です。報道関係4人で研究者が3人。『見捨てられた初期被曝』を岩波書店から出版されたstudy2007さんも、2015年11月13日にお亡くなりになりました)。

広瀬 報道関係というのは『報道ステーション』のディレクターの方ですか?

マコ そう、お一人は去年亡くなった『報道ステーション』のディレクターです。
 あの方には、亡くなる前日にも会っていました。プライベートでも仲がよかったので、なぜ自死したんだろうと疑問に思っていました。いろいろ調べて、最終的にはご遺族にもお会いできました。遺書や保険の話も教えてもらって、相当長く自死の計画を立てていたことがわかりました。


広瀬 自死の計画というのは?

マコ 彼とのメールのやり取りを振り返ってみると、2012年頃は、
「被曝の取材は何十年も続けなくてはならない。被災地の人との信頼関係が重要だから、お互いに連携してやっていこう」
 という感じでいました。

 それが2013年末になると、「次の3月11日の『報道ステーション』がラストチャンスだから全力でやる」という言い方に変わったのです。

 私は「別にラストじゃないでしょ。5年後も10年後もずっとやりましょう」とメールしたのですが、その頃から決めていた、ということが、いろいろ調べて後でわかりました。
 彼の場合、局からの圧力があったことは事実だし、そのほか冤罪事件も追いかけていて、自死する原因は1つではなく、いろいろなことが重なっていたと思いますが……。

広瀬 原発に関して調べていると、いろいろな圧力がかかってきます。それが負担だったのでしょうね。

研究者への
大学からのすさまじい圧力


マコ 「ラストチャンスだから」と言ってつくった彼のニュースは、環境省から名指しで異議を唱えられました。でも、彼はその直後に「平気だよ」と言っていました。一般的に、メディアの方は比較的バッシングに慣れていると思うのですが、大学の研究者の方は違います。
 ネットで研究内容がバッシングされて、匿名の電話が大学にかかることもあります。学内での圧力は、相当なものですね。

広瀬 研究費がゼロになったり、研究が黙殺されたり、存在を無視されたりと、いろいろあります。一番卑劣なのは、人格否定の噂を広めるやり方です。

マコ 広瀬さんが先ほどおっしゃった松山の集会の2日前に、琉球大学の研究者、野原千代さんが病死しました。千代さんは、福島原発事故による被曝とヤマトシジミ(蝶)の関係について命がけで研究していました。この研究はすばらしく、山本太郎議員が国会での質問にも使っていました。

広瀬 私も読みました。琉球大学でも、彼女は圧力を受けていたのですか? 沖縄ですよ。

マコ 初めて彼女に会いにいったとき、論文の解説はするけれど、いろいろあって取材は受けられないから、私(マコ)が独自に論文を理解して記事にしたことにしてほしい、と言われました。

 亡くなった方々とのメールのやり取りを振り返って思うのですけれど、自死すると決めている人、余命が数ヵ月と知っている人が、本当に命がけで原発事故の被曝の問題を報道したり研究したりしていたんだなと、改めて思いました。

広瀬 短い命と知っての活動ですか。言葉もない。つらい話ですね。

マコ 野原千代さんの最後のフェイスブック投稿は、岡山大学の津田敏秀先生の会見のことでした。

広瀬 ダイヤモンド書籍オンライン連載第39回で紹介しましたが、岡山大学の津田敏秀先生が、2015年10月8日に東京都内にある日本外国特派員協会で記者会見して、

「1986年に起きたチェルノブイリ原発事故のあとに甲状腺がんの発症が多発したケースが、福島に重なる事態は避けがたい」

 と警告したことですか?

マコ そうです。「津田先生は、本当に率直、真っ正直な方です」と、フェイスブックに書いていました。フリーランスの記者で、東電の記者会見に通っていて亡くなった友人は、昨年12月31日に大阪のラジオで私たちが原発事故のことを話したことを、ツイッターで最後につぶやいてくれました。
 みなさん最期まで、原発事故のことを考えて亡くなられたんだなと思います。

半径2メートルに
公安が立っている「異常な日常」


広瀬 亡くなった人たちに共通していたのは、バッシングされたことですね。
最近では、右翼からたたかれるケースも増えているようですが。

マコ 一昨年くらいから、直接的な圧力がきたという感じがします。
 今年6月には、知り合いや公安OBの人から、「逮捕されるから気をつけろ」と言われました。公安や警察が、
「今日、おしどりはどこにいますか」
「おしどりと、最近いつ会いましたか」
「おしどりは今日、誰と何をしゃべっていますか」
 などと、内偵が入ってくるそうです。

「2週間に14回は異様だから、近々逮捕されるよ。弁護士さんの準備をしておいたほうがいい」
 と言われました。
 2013年秋には2、3週間、常に公安調査庁にマークされていた時期がありました。

広瀬 公安は顔を見ればわかる。目つきが違うから。
 私は以前に、知人の新聞記者から「あなたは、いま尾行されている」と教えてもらったことがありました。そういうときは、店に入るんです。
 すると尾行している公安が困って立ち止まる。そこで、いきなり目の前に出て、顔をにらむと逃げていきます。マコさんの場合はどんな感じでしたか。

マコ 公園で取材していたら、1メートルくらいの場所に男の人が立っているんです。
 取材相手の人が不思議に思って、「マネージャーさんですか?」と聞かれたので、「たぶん、追っかけです」と答えたけれど、実は尾行だったのね。

 北茨城市役所に福島のママたちと一緒に取材に行ったときは、2メートルくらいの距離にずっと立っている男性がいました。
「市役所の人ですか?」
「このあたりの人ですか?」
 と聞いても、終始無言でした。帰りに福島のママの車に乗せてもらったら、いきなり車のナンバーと顔写真を撮るのです。明らかに「威嚇」です。


広瀬 マコちゃんや私たちはいいけど、一緒にいる人はイヤだよね。その威嚇で、しゃべらせないようにするんだ。
 私が浜岡で講演したときは、駐車場に止まっている車のナンバーを、中部電力が全部記録していました。
 講演会の参加者にとっては、それが町内で、ものすごい圧力になります。
 それから私の経験でいうと、福井と青森は気をつけたほうがいい。時々、殺気を感じます。
 敦賀は本当にこわくて、電車の中で取り囲まれたことがありました。講演会が終わって夜遅く一人で列車移動していたら、ジリジリと取り囲まれたから1つ前の駅で飛び降りた。とにかく福井と青森は気をつけたほうがいい。考えると、両方とも核燃料サイクルに関係しています。プルトニウムに、ね。

マコ 東京電力にも、私たちについて公安調査庁から内偵がきたそうです。私たちが何のために取材しているか、どこかの政党がついているのか、どこからかお金がついているのか、と調べていた。東電が公安調査庁に返事したのは、
「おしどりは、よしもとクリエイティブ・エージェンシーに所属しています」
 ということだけだった、そうです。
 でも、実際それしかないのよ! 税金のムダ遣い!


広瀬 そうですね。彼らアホは、一体何を考えているんだろう。
 公安の予算は大きいから、失業対策だと、私は思ってきましたがね。ただし、いまは公安の裏で、電力会社が、つまり電事連が糸を引いていることは間違いない。

次回は、「まったく報じられない『排気筒問題』と2号機『大惨事』の危険性」について議論しましょう。

(つづく)



【第43回】 2015年12月12日 広瀬 隆 [ノンフィクション作家]
まったく報じられない
「排気筒問題」と
2号機「大惨事」の危険性

――おしどりマコちゃん×広瀬隆対談【パート4】

排気筒が倒壊すると、
どんな惨事になる?


広瀬 原発事故のあと、福島現地の問題を一番くわしく、しかも継続的に取材しているのはおしどりマコちゃんだと思います。そこで福島第一原発の事故現場の現状について聞きたいのですが、いま私が気になっているのは排気筒が壊れないかどうかです。その危険性を読者に説明してください。

マコ 「排気筒」とは、原子炉の圧力が高くなったときなどに、気体をフィルターを通してベントするための煙突です。
 つまり、原発で、原子炉圧力容器や格納容器の圧力が異常に上昇した場合に、破壊しないよう、内部の気体を排出して、圧力を降下させる装置です。炉内の換気のときにも使います。

 1号機と2号機の共用の排気筒の高さは120メートル(左下写真)ですが、高さ約66メートル付近の接合部で、破断が5ヵ所、変形が3ヵ所も見つかっています。

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 東電は「切れ目があっても、震度6強の地震までは倒れない」と言っていますが、東電に「その耐震評価を計算したのは施工当時の数字をそのまま使ってですよね」と確認したら、なんと「そうです」と言っていました! 30年の経年劣化はまったく考えられていません。しかも東日本大震災の大地震の揺れを受けたあとなのに、ですよ。

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広瀬 東海村にある日本原子力研究所・東海研究所の原子炉JRR-2は、東日本大震災が起こったときに解体中でしたが、2011年3月23日の余震で40メートルある原子炉排気筒の先端15メートルがポッキリと折れましたよ。これが、そのときの写真(下)です。

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 ところが、福島第一原発では、それを修理しようにも、排気筒の下は線量が高い。毎時25シーベルトもの地点があります。7シーベルト浴びると人は死ぬと言われていますから、短時間近づくこともできません。

マコ そう、それが2013年12月に毎時25シーベルトだった地点が、今年10月の測定で毎時2シーベルトになった、と発表されました。だから補修計画を立てられるかもしれないというのですが、放射能がこんな短期間に、こんなに減衰するわけがありません! 東京電力は「測り方の違いのせい」と言いますが、何か高線量のものがどこかにいった可能性もあるし。「測り方が違うから」だけで説明しようとするなんて、とても荒い対応だと思います!


広瀬 ない。ありえない。なぜそういうウソをつくのだろう。だから東電は信用できないんだ。

マコ 1号機と排気筒をつなぐSGTS(Stand-by Gas Treatment System:非常用ガス処理系)配管に、毎時25シーベルトと毎時15シーベルトの部分があると、2013年12月に発表されたのです。

広瀬 もしそこが壊れたら、敷地全体に誰も入れなくなって、復旧作業ができなくなる。大変なことになります。

マコ 排気筒の亀裂は2013年9月にわかって、原子力規制庁は「倒壊した場合、環境にどのような影響を与えるか示せ」と東電に指示していますが、現時点でも回答されていません。ですが、東京電力社員は「この排気筒は東京電力としてもラスボスの一つと考えています」と言っていました。わざと環境影響評価を出していないとしか考えられません。

広瀬 原子力規制庁の官僚たちも、東電とグルになって放置しているわけだ。
もし、排気筒が倒壊すれば、排気筒の下部に蓄積された放射性物質がどっと舞い上がります。原発作業者は作業を投げ出して逃げるしかない。

マコ 原発作業員の人たちが一番こわがっているのは、倒壊して2号機の建屋が破損することです。じつは、2号機は爆発していないので、建屋内に大量の放射性物質のダストが溜まっています。2号機の建屋が少しでも破損すると、近隣に大量の放射性物質のプルームが流れます。

メルトダウンが最も進んだのは
2号機だった!


広瀬 2号機の内部の実態については、誰にもわかっていないし。

マコ ですから、いま、2号機に近づくために周辺を片づけ始めています。
 実態は全然わかっていないのですが、2号機は一番大規模なメルトダウンが進んだと考えられています。

広瀬 そこを読者にわかりやすく解説してください。

マコ 2号機は爆発こそしていませんが、環境中に最も大量の放射性物質を出したと見られています。去年8月、「未確認・未解明事項の調査・検討結果のご報告~第2回進捗報告~」から「事故時に観測された中性子と燃料溶融との関連について」という資料が出てきました。 その解析によると、まず地震と津波で冷却装置が失われ、1、2、3号機ともに水位が低下して、水から顔を出した燃料棒が過熱状態になりました。それで慌てて消防車で水を入れようとしました。

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 でも、燃料棒が過熱状態になっていたので、水を入れ続けると、水蒸気が発生して内部の圧力が高くなってしまい、消防車のポンプ能力では注水できなくなりました。そこで、水がすべて蒸発し、内部の圧力が下がって、消防車のポンプで水が入れられるようになるまで待ちました。図の(5)から(1)に戻り、また同じことを繰り返します。爆発があった1号機と3号機では、これを1回行いました。なぜなら、爆発したので、水蒸気の圧力が逃げるルートができたからではと言われています。ところが一方、2号機は、これを3回繰り返しました。

 この経過の何が問題かというと、過熱した燃料棒に水をかけたので、燃料棒を包んでいる被覆管のジルコニウムが反応し、「水―ジルコニウム反応」が起こりました。そのときに大量のエネルギーが放出され、燃料の温度が急激に上昇し、燃料が熔融して、2号機で大規模なメルトダウンが進行したと考えられています。

広瀬 ということは、排気筒が倒壊して、2号機を少しでも傷つけたら大変な事態になります。

「中性子が出てきたタイミング」と
「2号機メルトダウンのタイミング」が同じ!?


マコ それから2011年3月14~15日の福島第一原発正門の中性子線のデータがあります。 これを見ると、「中性子が出てきたタイミング」と「2号機のメルトダウンの進行したタイミング」が同じなのです。



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広瀬 そう、最初は2号機が最大の危機だったはずです。この数字は、東電が測ったデータ?

マコ はい、福島第一原発正門で測定していたのです。正門にしか中性子線のモニターがなかったのです。原子炉建屋内にも中性子線の測定器があったのですが、燃料棒が溶け落ちたときに全部ダメになったからです。

広瀬 その中性子線のモニタリングポストは、いまからでも、設置すればいいのに、なぜ設置しないんだろう。私は「再臨界をあれこれ憶測する前に、中性子線を測れ!」と叫んでいたんです。

マコ 研究者に、原発作業員の人で5円玉を持っている人を探してほしいと頼まれたことがあります。5円玉は銅と亜鉛でできているので、それで中性子線の痕跡がわかるそうです。
 結局、シビアアクシデント(重大事故)のとき、バッテリーを近くのホームセンターに買い出しに行ったりするために現金が必要で、お財布を提出していたために、5円玉が1個も残っていなかったのです。

広瀬 同位体を調べてわかるのかな。知らなかった。

マコ わかると聞きました。それから中性子線も測れるAPD(=ポケット線量計)とかガラスバッジをつけた作業員はいなかったのかと、日立や東芝の人たちにも聞きましたが、見つかっていません。
 それから、防衛省の自衛隊員が上空から1、2、3号機の原子炉の温度を測ったりしていました。
 そのときのメンバーがどれくらい被曝したかというデータがこれです。

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広瀬 上空のかなり高いところでも、中性子線が出ていることになっていますね。

マコ 中性子線が青ですが、人によってかなり数値が大きい。
 東大の専門家に見てもらいましたが、よくわからないということでした。「3000フィート(900メートル)程度で宇宙線由来の中性子被曝はまず考えられない。なので出所は直下か。だとすれば、地上のモニタが反応しそうなものだが…」とのことでした。この資料では、日時の表記がないため、原発との比較ができません。なので、ガラスバッジのエラーか、実際の測定値か、評価できないのです。

広瀬 中性子線は、電気的に中性だから、途中にある物質の抵抗を受けないので、1キロメートルぐらい簡単に飛びますよ。1999年に起こった東海村の臨界事故では、2キロメートル先まで中性子線が到達していたんですよ。
 2011年5月11日に、福島大学が上空の放射線量の調査結果を公表しています。大学上空0.9~2.6キロメートルで高い放射線量が観測され、2011年5月時点でも原発から大量の放射性物質の漏洩が続いていることが確認されていますが、そのデータはベータ線と、ガンマ線でした。ガンマ線は2万メートル以上の高空でも測定されています。
 余計なことを言ってすみません。話を戻しますと、先ほどのグラフでは、上空のかなり高いところでも、中性子線が出ていると判断して、「中性子が出てきたタイミング」と「2号機のメルトダウンの進行したタイミング」が同じと見ると、2号機の危険性はかなり大きいから、排気筒の倒壊がますます心配ですね。

なぜ、子どもに
放射能の掃除をさせるのか


広瀬 話は変わりますが、今年の10月10日に国道6号線を子どもたちに掃除させたでしょう。子どもたちを危険な被曝地帯に連れてゆくなんて、トンデモナイことですね。

マコ そうです。清掃活動は、特定非営利活動法人ハッピーロードネット(福島県広野町)などが企画して、福島第一原発がある双葉、大熊の両町を除く8市町の国道6号線、計約50キロで、中高生約200人を含む約1400人が参加しました。


 一番線量の高い福島第一原発の近くは、大人がやるということでしたが、そもそも国道6号線は開通できないくらい線量が高かったところです。

広瀬 国道6号線が現在でもハッピーロードとは、よく言うね。空間線量より怖いのは、自動車が運んでいる放射性物質が飛びかっていることですよ。そんなところを、なぜ子どもたちに掃除させるのか。まったくもって許しがたい。

マコ 企画したNPO法人に様々な要望がよせられたそうです。それについて共同通信や産経新聞などは『「殺人行為」「狂気の沙汰」など誹謗中傷の電話やFAX、メールが多数寄せられ、子どもの被ばくを心配する人たちの過剰な反応』という記事を出しています。
 しかし「子どもたちの健康と未来を守るプロジェクト」などが6号線の線量の測定をし、近隣にホットスポットがあったり、土埃が舞い上がっている状況を確認し、神戸国際キリスト教会など70団体で、この6号線のボランティアを募っての清掃を撤回してほしいと要望書を出していました。それらも「誹謗中傷などの過剰な反応」にするのはおかしいと思います。


広瀬 過剰な反応だって? おかしいのは掃除をさせるほうだろう。
 なぜ、粉塵などに付着した放射性物質のある道路を子どもたちに掃除させるのか!
 おしどりマコちゃん・ケンちゃん、これからも、福島県内のことを取材して、現状を私たちに教えてください。なにしろ、新聞にニュースが出ないので、みんな忘れさせられているのですから。お願いします。

次回は、「SEALDs躍進のかげに、卓越した「後輩育成システム」あり!?」について、お話をうかがいましょう。

(つづく)





なぜ、『東京が壊滅する日』を
緊急出版したのか――広瀬隆からのメッセージ

 このたび、『東京が壊滅する日――フクシマと日本の運命』を緊急出版した。

 現在、福島県内の子どもの甲状腺ガン発生率は平常時の70倍超。
 2011年3~6月の放射性セシウムの月間降下物総量は「新宿が盛岡の6倍」、甲状腺癌を起こす放射性ヨウ素の月間降下物総量は「新宿が盛岡の100倍超」(文部科学省2011年11月25日公表値)という驚くべき数値になっている。

 東京を含む東日本地域住民の内部被曝は極めて深刻だ。
 映画俳優ジョン・ウェインの死を招いたアメリカのネバダ核実験(1951~57年で計97回)や、チェルノブイリ事故でも「事故後5年」から癌患者が急増。フクシマ原発事故から4年余りが経過した今、『東京が壊滅する日――フクシマと日本の運命』で描いたおそるべき史実とデータに向き合っておかねばならない。

 1951~57年に計97回行われたアメリカのネバダ大気中核実験では、核実験場から220キロ離れたセント・ジョージで大規模な癌発生事件が続出した。220キロといえば、福島第一原発~東京駅、福島第一原発~釜石と同じ距離だ。

 核実験と原発事故は違うのでは? と思われがちだが、中身は同じ200種以上の放射性物質。福島第一原発の場合、3号機から猛毒物プルトニウムを含む放射性ガスが放出されている。これがセシウムよりはるかに危険度が高い。

 3.11で地上に降った放射能総量は、ネバダ核実験場で大気中に放出されたそれより「2割」多いからだ。

 不気味な火山活動&地震発生の今、「残された時間」が本当にない。
 子どもたちを見殺しにしたまま、大人たちはこの事態を静観していいはずがない。

 最大の汚染となった阿武隈川の河口は宮城県にあり、大量の汚染物が流れこんできた河川の終点の1つが、東京オリンピックで「トライアスロン」を予定する東京湾。世界人口の2割を占める中国も、東京を含む10都県の全食品を輸入停止し、数々の身体異常と白血病を含む癌の大量発生が日本人の体内で進んでいる今、オリンピックは本当に開けるのか?

 同時に、日本の原発から出るプルトニウムで核兵器がつくられている現実をイラン、イラク、トルコ、イスラエル、パキスタン、印中台韓、北朝鮮の最新事情にはじめて触れた。

 51の【系図・図表と写真のリスト】をはじめとする壮大な史実とデータをぜひご覧いただきたい。

「世界中の地下人脈」「驚くべき史実と科学的データ」がおしみないタッチで迫ってくる戦後70年の不都合な真実!

 よろしければご一読いただけると幸いです。

<著者プロフィール>
広瀬 隆(Takashi Hirose)
1943年生まれ。早稲田大学理工学部卒。公刊された数々の資料、図書館データをもとに、世界中の地下人脈を紡ぎ、系図的で衝撃な事実を提供し続ける。メーカーの技術者、医学書の翻訳者を経てノンフィクション作家に。『東京に原発を!』『ジョン・ウェインはなぜ死んだか』『クラウゼヴィッツの暗号文』『億万長者はハリウッドを殺す』『危険な話』『赤い楯――ロスチャイルドの謎』『私物国家』『アメリカの経済支配者たち』『アメリカの巨大軍需産業』『世界石油戦争』『世界金融戦争』『アメリカの保守本流』『日本のゆくえ アジアのゆくえ』『資本主義崩壊の首謀者たち』『原子炉時限爆弾』『福島原発メルトダウン』などベストセラー多数。



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