07.29
Fri
被爆放置、高まる危険
7月26日 東京新聞夕刊より
放射能との闘いが始まった。
原子力安全・保安院によれば、
福島第1原発事故で放出された放射性物質は77万テラベクレル(テラは1兆)で、
チェルノブイリの約1割程度だという。
一見、事故が小さいとの印象を与える。
だが、チェルノブイリの放出量は520万~1400万テラベクレルと推計されており、
広島型原爆約200個分にあたると考えると、
実は、福島第1原発事故は広島型原爆20個分もの放射性物質をまき散らしたことになる。
人間の命と健康に影響がないはずはない。
にもかかわらず、事故発生後、政府と東京電力は情報を隠し、事態を放置してきた。
七沢潔「『放射能汚染地図』から始まる未来Iポスト・フクシマ取材記」 (「世界」8月号)は、
水素爆発があった3月15日から現地に突入した迫真のルポである。
七沢らの計測によると、福島第1原発から4キロにある双葉町山田地区は、
「セシウム137だけで1120万ベクレル」で、
チェルノブイリで居住禁止になる「第1ゾーンの下限値148万ベクレルの約8倍」もの値であった。
さらに七沢らは、3月15日に
「『屋内退避』(自主避難)地域に指定」された
「原発から半径20kmから30kmの間」にある浪江町北西部の赤宇木に入った。
「だがそこが『屋内退避』では済まされない高レベルの放射線に襲われていたことを、実は政府は知っていた」という。
文部科学省は、モニタリングカーを用いて
「15日の夜8時40分から50分にかけて、
浪江町の原発から北西20kmの地点三ヵ所を選んで測定を行っていた。
その一つである赤宇木地区では「空間線量率は毎時330マイクロシーベルト。
日本の通常値の5500倍」が測定されていた。
「文科省はこのデータを官邸に報告」したにもかかわらず、
枝野官房長官は「『専門家によるとただちには人体に影響のないレベル』と語るだけ」で、
「『屋内退避』をこえる警告は何も発しなかった」。
政府は、1ヵ月もの間、
緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム(SPEEDI)の予測とデータを隠し、
多くの人々を被曝するに任せていたことになる。
しかし、問題はそれだけにとどまらない。
広範な地域において土壌が汚染され、
いまや福島県産牛肉やシイタケなどの食品にも放射能汚染が広がっている。
それらは低線量放射線の内部被曝問題を引き起こす。
チェルノブイリで地道な調査活動が行われ、さまざまな事実が明らかにされている。
崎山比早子
「放射性セシウム汚染と子どもの被ばく」(「科学」7月号)によれば、
「ロシアのBryansk Oblast(ブリャンスク州)西部地方で
1991年から1996年に住んでいた5歳から15歳までの男女の児童」を対象とした調査では、
「土地の汚染度と子どものセシウム体内蓄積量とは強い相関関係を示している」
またセシウムの体内蓄積量は、
「ミルク、キノコ、肉の3種類を食べない場合のセシウム量を1とすると
この3種のすべてを食べる場合は3.2倍」になる。
さらに、「ベラルーシ・Gomel(ゴメリ)州で10歳までに死亡した52例の子どもの臓器」を調べた結果、
甲状腺など内分泌腺をはじめ「多臓器にわたる慢性的被ばく」が見いだされる。
そして
「汚染地区のこどもたちには
反復性呼吸器、消化器感染症、内分泌疾患、白内障が非汚染地区に住む子どもたちより」多く、
「明らかに正常血圧の児童が体内汚染の高いグループで減少している」という。
崎山は、福島でも
「妊婦、乳幼児、児童はできるだけ早く避難させるように政府や行政は手を尽くすべきである」と主張する。
児玉龍彦
「″チェルノブイリ膀胱炎″ 長期のセシウム137低線量被曝の危険性」
(「医学のあゆみ」7月23日号)によれば、
日本バイオアッセイ研究センター(神奈川県)所長の福島昭治博士らによって、
前癌状態である「増殖性の異型性変化を特徴とする″チェルノブイリ膀胱炎″」が発見されている。
そして、
「すでに福島、二本松、相馬、いわき各市の女性からは母乳に2~13ベクレル/kgのセシウム137が検出」
されており、
この濃度は、福島博士らが調査した「チェルノブイリの住民の尿中のセシウム137にほぼ匹敵する」。
「そうすると、これまでの『ただちに健康に危険はない』というレベルではなく、
すでに膀胱癌などのリスクの増加する可能性のある段階になっている」と警告する。
児玉は自身の南相馬における除染活動に基づいて、今の放射能汚染は
「土壌の粘土分に付着したセシウム137からの放射によると思われ、土壌の除染が鍵」となっており、
とくに「放射線障害は、細胞増殖の盛んな子ども、免疫障害のある病人に起きやすいことから
保育園、幼稚園、小学校、中高等学校と年齢の若い児童の接触、吸入可能性あるところから除染が急がれる」
という。
その際、20~30キロの同心円の規制区域が線量の高さとずれており、
早く「自治体の判断」にまかせるとともに、
「賠償と強制避難を結びつけるのをやめ、住民の避難コストは東電と政府で支払うべきである」とする。
そのうえで、児玉はこう呼びかける。
「人が生み出した物を人が除染できないわけがない。
福島におけるセシウム除染は、次の世代への日本の科学者の責任である」と。
(かねこ・まさる=慶応大経済学部教授)
測定と除染を急げ/児玉龍彦東大教授に聞く
2011年07月01日
福島原発事故は広島原爆20個分の放射性物質を飛散させた。もはや「どこが安全か」という議論をしている時ではない。線量をきめ細かく測り、高い所から表土を取り除くなど効果的に除染することが急務だ。
飛散は一過性で、除染でかなり減らせる。微粒子なので一律には舞い落ちていない。高濃度の場所は、県全体でも自治体の中でも、個々の校内でも存在する。
福島県内での測定の経験では、平均で毎時0・5マイクロシーベルトの幼稚園で、雨どいや滑り台の下などは5~10倍になった。園内にミニホットスポットが存在する。
幼いほど放射線の影響を強く受けるので、除染の優先順位が高いのは保育園と幼稚園だ。続いて小中高。子どもが接触する所の除染を急ぎ、各地域、各施設で安心できる空間をつくる。妊婦や病気の人にも放射線がかからないよう努める。室内を毎時0・1マイクロシーベルト以下にするのが目安だ。
測定は園内をなめるように詳しく見ること。線量計を持って回れば高い場所は簡単にわかる。各地域で園や学校の先生方が担うほかないとすれば、講習などで学んでいく必要がある。お母さん方は、除染で数値が低くならなければ安心できない。3月15日に大量飛散した物質でも土壌の表層2~3センチにあり、5センチ削れば大半が取り除ける。
低い線量による内部被曝(ひ・ばく)の危険性も直視しなければならない。福島で母乳からセシウムが1リットルあたり2~13ベクレル出た。チェルノブイリ原発事故で長期被曝が前がん状態を作り出したという研究報告と同レベルの濃度だ。行政の言う「ただちに健康に危険はない」という次元ではなく、異常な事態だ。食品の放射線量をチェックすることも極めて重要だ。
除染に関する現行の法体系は、少量の高い放射性物質が前提で、今回の実情と合っていない。国の各種指針は専門的な知見を十分に反映しておらず、低い線量の放射性物質の膨大な飛散への対策は、国任せにしてはおけない状況だ。子孫への責務を果たすためにも、関係者が総力をあげる必要がある。
◆こだま・たつひこ 東大先端科学技術研究センター教授(システム生物医学)でアイソトープ総合センター長も務める。福島県南相馬市で学校などの放射線量測定を続け、市に調査や除染を指導している。
(聞き手・吉村成夫)
7月26日 東京新聞夕刊より
放射能との闘いが始まった。
原子力安全・保安院によれば、
福島第1原発事故で放出された放射性物質は77万テラベクレル(テラは1兆)で、
チェルノブイリの約1割程度だという。
一見、事故が小さいとの印象を与える。
だが、チェルノブイリの放出量は520万~1400万テラベクレルと推計されており、
広島型原爆約200個分にあたると考えると、
実は、福島第1原発事故は広島型原爆20個分もの放射性物質をまき散らしたことになる。
人間の命と健康に影響がないはずはない。
にもかかわらず、事故発生後、政府と東京電力は情報を隠し、事態を放置してきた。
七沢潔「『放射能汚染地図』から始まる未来Iポスト・フクシマ取材記」 (「世界」8月号)は、
水素爆発があった3月15日から現地に突入した迫真のルポである。
七沢らの計測によると、福島第1原発から4キロにある双葉町山田地区は、
「セシウム137だけで1120万ベクレル」で、
チェルノブイリで居住禁止になる「第1ゾーンの下限値148万ベクレルの約8倍」もの値であった。
さらに七沢らは、3月15日に
「『屋内退避』(自主避難)地域に指定」された
「原発から半径20kmから30kmの間」にある浪江町北西部の赤宇木に入った。
「だがそこが『屋内退避』では済まされない高レベルの放射線に襲われていたことを、実は政府は知っていた」という。
文部科学省は、モニタリングカーを用いて
「15日の夜8時40分から50分にかけて、
浪江町の原発から北西20kmの地点三ヵ所を選んで測定を行っていた。
その一つである赤宇木地区では「空間線量率は毎時330マイクロシーベルト。
日本の通常値の5500倍」が測定されていた。
「文科省はこのデータを官邸に報告」したにもかかわらず、
枝野官房長官は「『専門家によるとただちには人体に影響のないレベル』と語るだけ」で、
「『屋内退避』をこえる警告は何も発しなかった」。
政府は、1ヵ月もの間、
緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム(SPEEDI)の予測とデータを隠し、
多くの人々を被曝するに任せていたことになる。
しかし、問題はそれだけにとどまらない。
広範な地域において土壌が汚染され、
いまや福島県産牛肉やシイタケなどの食品にも放射能汚染が広がっている。
それらは低線量放射線の内部被曝問題を引き起こす。
チェルノブイリで地道な調査活動が行われ、さまざまな事実が明らかにされている。
崎山比早子
「放射性セシウム汚染と子どもの被ばく」(「科学」7月号)によれば、
「ロシアのBryansk Oblast(ブリャンスク州)西部地方で
1991年から1996年に住んでいた5歳から15歳までの男女の児童」を対象とした調査では、
「土地の汚染度と子どものセシウム体内蓄積量とは強い相関関係を示している」
またセシウムの体内蓄積量は、
「ミルク、キノコ、肉の3種類を食べない場合のセシウム量を1とすると
この3種のすべてを食べる場合は3.2倍」になる。
さらに、「ベラルーシ・Gomel(ゴメリ)州で10歳までに死亡した52例の子どもの臓器」を調べた結果、
甲状腺など内分泌腺をはじめ「多臓器にわたる慢性的被ばく」が見いだされる。
そして
「汚染地区のこどもたちには
反復性呼吸器、消化器感染症、内分泌疾患、白内障が非汚染地区に住む子どもたちより」多く、
「明らかに正常血圧の児童が体内汚染の高いグループで減少している」という。
崎山は、福島でも
「妊婦、乳幼児、児童はできるだけ早く避難させるように政府や行政は手を尽くすべきである」と主張する。
児玉龍彦
「″チェルノブイリ膀胱炎″ 長期のセシウム137低線量被曝の危険性」
(「医学のあゆみ」7月23日号)によれば、
日本バイオアッセイ研究センター(神奈川県)所長の福島昭治博士らによって、
前癌状態である「増殖性の異型性変化を特徴とする″チェルノブイリ膀胱炎″」が発見されている。
そして、
「すでに福島、二本松、相馬、いわき各市の女性からは母乳に2~13ベクレル/kgのセシウム137が検出」
されており、
この濃度は、福島博士らが調査した「チェルノブイリの住民の尿中のセシウム137にほぼ匹敵する」。
「そうすると、これまでの『ただちに健康に危険はない』というレベルではなく、
すでに膀胱癌などのリスクの増加する可能性のある段階になっている」と警告する。
児玉は自身の南相馬における除染活動に基づいて、今の放射能汚染は
「土壌の粘土分に付着したセシウム137からの放射によると思われ、土壌の除染が鍵」となっており、
とくに「放射線障害は、細胞増殖の盛んな子ども、免疫障害のある病人に起きやすいことから
保育園、幼稚園、小学校、中高等学校と年齢の若い児童の接触、吸入可能性あるところから除染が急がれる」
という。
その際、20~30キロの同心円の規制区域が線量の高さとずれており、
早く「自治体の判断」にまかせるとともに、
「賠償と強制避難を結びつけるのをやめ、住民の避難コストは東電と政府で支払うべきである」とする。
そのうえで、児玉はこう呼びかける。
「人が生み出した物を人が除染できないわけがない。
福島におけるセシウム除染は、次の世代への日本の科学者の責任である」と。
(かねこ・まさる=慶応大経済学部教授)
測定と除染を急げ/児玉龍彦東大教授に聞く
2011年07月01日
福島原発事故は広島原爆20個分の放射性物質を飛散させた。もはや「どこが安全か」という議論をしている時ではない。線量をきめ細かく測り、高い所から表土を取り除くなど効果的に除染することが急務だ。
飛散は一過性で、除染でかなり減らせる。微粒子なので一律には舞い落ちていない。高濃度の場所は、県全体でも自治体の中でも、個々の校内でも存在する。
福島県内での測定の経験では、平均で毎時0・5マイクロシーベルトの幼稚園で、雨どいや滑り台の下などは5~10倍になった。園内にミニホットスポットが存在する。
幼いほど放射線の影響を強く受けるので、除染の優先順位が高いのは保育園と幼稚園だ。続いて小中高。子どもが接触する所の除染を急ぎ、各地域、各施設で安心できる空間をつくる。妊婦や病気の人にも放射線がかからないよう努める。室内を毎時0・1マイクロシーベルト以下にするのが目安だ。
測定は園内をなめるように詳しく見ること。線量計を持って回れば高い場所は簡単にわかる。各地域で園や学校の先生方が担うほかないとすれば、講習などで学んでいく必要がある。お母さん方は、除染で数値が低くならなければ安心できない。3月15日に大量飛散した物質でも土壌の表層2~3センチにあり、5センチ削れば大半が取り除ける。
低い線量による内部被曝(ひ・ばく)の危険性も直視しなければならない。福島で母乳からセシウムが1リットルあたり2~13ベクレル出た。チェルノブイリ原発事故で長期被曝が前がん状態を作り出したという研究報告と同レベルの濃度だ。行政の言う「ただちに健康に危険はない」という次元ではなく、異常な事態だ。食品の放射線量をチェックすることも極めて重要だ。
除染に関する現行の法体系は、少量の高い放射性物質が前提で、今回の実情と合っていない。国の各種指針は専門的な知見を十分に反映しておらず、低い線量の放射性物質の膨大な飛散への対策は、国任せにしてはおけない状況だ。子孫への責務を果たすためにも、関係者が総力をあげる必要がある。
◆こだま・たつひこ 東大先端科学技術研究センター教授(システム生物医学)でアイソトープ総合センター長も務める。福島県南相馬市で学校などの放射線量測定を続け、市に調査や除染を指導している。
(聞き手・吉村成夫)
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